【在宅医・佐々木淳コラム】コロナ往診の現場から

往診中の佐々木医師(佐々木医師提供)

 今日も訪問診療の合間に、コロナの患者さんたちを往診しました。往診依頼の来るケースは、基本的に中等症以上。なので酸素濃縮器を車載、必要があればそのまま設置します。

 昨日、保健所から依頼があったにも関わらず、家に人を入れたくないと支援をお断りされたお一人暮らしの男性。今日、再び保健所を経由して本人から往診依頼。酸素飽和度は85%、酸素5リットルで吸入しても91%。かなり辛かったのだと思います。入院を優先していただけるよう保健所にお願いしました。

 70代の夫婦は二人そろって中等症Ⅱ。酸素飽和度は90%前後、二人とも酸素投与をスタート。数日経口摂取ができていない奥さんには点滴を。同居する息子さんも軽症ながら強い症状あり、対症療法を開始。

 昨日往診して、ステロイドを点滴、酸素をスタートした30代の女性は元気になり、久しぶりにシャワーを浴びることができたと。しかし、昨日は主介護者だった同居の男性は低酸素血症が進行、こちらも酸素をスタートすることに。

 昨日、酸素とステロイドを開始した50代の基礎疾患のある男性は、本日さらに状態が悪化。保健所に入院調整の優先順位を上げていただくようお願いしたところ、幸運にも!同日中に入院先が決定。

 法人全体では今日一日で30件を超える保健所からの対応依頼を受けています。かなりの勢いで経験値を蓄えつつあります。

 僕はコロナの往診を始めてみて、ますますコロナが怖くなりました。ワクチンは接種しているし、感染防御具も装着している。だけど、部屋に一歩足を踏み入れると、澱んだ重力のようなものを感じます。

 特に第5波では、家族全員が感染しているケースも多いです。一度、家庭に持ち込まれたら、もうその時点で他の家族を感染から守ることは難しいと考えたほうがよいと思います。N95マスクは呼吸も楽ではありません。

 診察をできるだけ短時間で終わらせようと思っても、相手に納得してもらおうと思うと、どうしても30分はかかってしまう。そして診療を終えるとガウンの中は汗だくです。コロナ病棟で仕事をしている医療専門職の苦労はこんなものではないと思いますし、本当に頭が下がります。

 そして在宅で療養しているコロナ患者さんたちはみな神妙です。宇宙服のような格好で室内に上がり、聴診もせずに診断し、在宅での治療の限界について説明され、そして最悪の事態についての覚悟を求められる。

 それでも、なぜ入院させてくれないのか!と怒りをぶつける人はわずかで、むしろこの不完全な医療に感謝をしてくれる。いや、それは感謝ではなく諦めなのかもしれませんが‥

 このパンデミック被災地の首都圏で、いま僕らが提供しているコロナ在宅医療は、まさに災害医療そのものです。

100%の医療はできない。そして100%の依頼に応えることはできない。
だけど、失われる命を一つでも少なくしたい。

 他に頼れるものがない人たちにとって、何があっても沈むことのない「藁」として、何があっても切れることのない「蜘蛛の糸」として、必要最低限だけれども最適で納得のできる医療を確実に届けたい。

 在宅というフィールドでのコロナとの戦いは、これからが本番。法人としても、個人としても、全力で取り組んでいきたいと思います。

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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