「演説力は『内容』と『話し方』の両輪で磨く!」 スピーチライター千葉佳織が伝授!「選挙演説のコツ」

 株式会社カエカ代表・スピーチライターの千葉佳織です。私は、スピーチスクール「GOOD SPEAK」をはじめとした、話す力の育成に関わる仕事をしています。政治家の方には、選挙に立候補される際の所信表明演説・政見放送の執筆や伝え方のトレーニングを行う仕事をしています。

 私は弁論の世界から人前で話す魅力に気づき、伝え方次第で人の心の動き方が変わることを実感しました。15年以上の演説・スピーチの分析と実践をもとに、覚悟を持って社会にアクションを起こす方、政治家の方を伝える力の側面でサポートしたいと思い、現在の仕事をしています。

 この連載では「演説のコツ」をご紹介いたします。連載を通して、相手を惹きつける演説のポイントをお掴みいただけるよう努めてまいります。

演説力を「内容」と「話し方」の2軸で捉える重要性

 演説力向上を目指す時、漠然と練習を繰り返すのではなく、紐解いて分解して理解することが第一ステップになります。はじめの分け方が「内容」と「話し方」になります。

「内容=なぜそれをあなた自身が語るのか」が演説の重要ポイント

 「内容」とは演説での言語化力や構成力のことです。言語化力では、「印象的なキーワードを散りばめて話す」「事実と物語のバランスを考える」「鼓舞する言葉を後半に多く使用する」など、構成力においては、「導入で惹きつけるための工夫」「起承転結がある構成にする」など、たくさんの工夫が必要です。

 とくに重要なのは、「なぜその内容をあなた自身が語るのか」を演説で聴衆に示すことです。日本語の演説は「挨拶→課題→解決策」など型に嵌ったものが多い印象を受けています。上手な演説を分析すると、話者のバックグラウンドや思いが適切に語られており、演説を通して自身の人柄を魅力的に伝えてファンづくりをしています。この「自己開示力」については、別途連載で特集してまいります。

相手に好印象を与える洗練された話し方……演説のポイントはそれだけではない!

 話し方を洗練することができれば、演説の聞き手に堂々とした印象を与えることができます。「発声練習や腹式呼吸」「滑舌の強化」「声の大小やスピードの使い分け」「『あー、えー』、『あのー』といった『フィラー』の削減」などポイントは多岐に渡ります。相手に好印象を持ってもらうためには欠かせないスキルになります。

 従来の日本の伝え方教育では、これまで「話し方」のみに焦点が当てらていました。しかし、「話し方」だけでは内容が伴わず、根本的な解決にはなりません。「内容」「話し方」両面から学習することが大切です。

演説で大切なのは「相手ありき」?!

 演説する上で大切な価値観として「相手ありき」がございます。逆の言葉をお伝えすると、「独りよがり」な状態を避けましょう。とても当たり前のことではありますが、実は最も難しいマインドセットでもあります。「語りたいことをたくさん詰め過ぎてしまう」「自分がもっとも落ち着くペースで早口で話してしまう」「語り慣れた言葉を使用する」こういったこだわりは、結果的に、伝わらない状態をつくっているのです。

「えー、ただいまご紹介にあずかりました」はいらない

 たとえば、「えー、ただいまご紹介にあずかりました」も同様です。多くの方は、この言葉を「自分がペースを掴みやすいように」言っています。しかし、聴衆の立場になった時、この言葉は必要ありません。むしろ、このような一文が長くなる言葉を入れることにより、演説が全体的に長くなり、冗長になります。

 この場合は、「(こんにちは、)〇〇議員の〇〇〇〇《名前》です」と明快に話すほうが爽やかな印象になり効果的です。また、第一声ですぐに名前を伝えられるため、相手の記憶に残りやすくなります。

覚えてほしい名前は「0.75倍ゆっくり」話す

 演説では上記を意識したあと、名前をゆっくり話してください。覚えてもらいたい事項ほどゆっくり話すと、聴衆の記憶に定着しやすくなります。とくに名前は、はじめて耳にする場合、姓名ともに完璧に覚える難易度があるものです。「〇〇議員の《(ゆっくり話す) 〇〇〇〇》です」のように、名前の部分のみ通常の話速の0.75倍程度を目指してお話されると、覚えてもらいやすくなります。このように冒頭の一文のみでも、さまざまな工夫点があります。

上手な演説は「内容」「話し方」ともに工夫が詰まっている

 これまで私はスピーチライターとしてさまざまな政治家の方、経営者の方の演説を紐解いてきました。良い演説に共通していることは「分析ができる」ことです。例えば、田中角栄さんの演説は、「汎用的な価値観を提示により感動パートがある」「ポジティブな内容とネガティブな内容の情報比率が素晴らしい」「わざとはやく話し、一番強調したい部分はゆっくりと意図的に話している」など、ポイントを紐解くことができるのです。

 この連載では、実際の演説の解説も含めてご紹介してまいります。次回は、内容構築「会話文の効果」についてお伝えしていきます。

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