【パラヒーローズ】競泳・山口尚秀 誰もが輝けるような共生社会の実現を伝えたい

山口尚秀が語った1年延期の影響とは?

【R e start パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(37)】パラ競泳の新星に注目だ。山口尚秀(20=四国ガス)は、2019年世界選手権で優勝し、一躍東京大会の金メダル候補に名乗りを上げた。新型コロナウイルス禍で祭典は1年延期となったが、ひたむきに夢を追いかけるスイマーの胸中に迫った。

「活発で、動くことが大好きな子供だった」。祖父母が歩行浴のできるプールに通っていたことがきっかけで、幼少期から水に慣れ親しんでいた。そんな山口が水泳に出会ったのは、小学4年のころだった。「泳ぐことが好きだったから」と隣接市のスイミングスクールに障がい者コースが新設されたことを機に、毎週土曜日にプールへ足を運ぶようになった。

当初はあくまで趣味程度。しかし、山口に神様が運命のいたずらを仕掛けた。高校1年のときに全国障害者スポーツ大会に出場した際、愛媛県選手団の監督から「本格的にしたらもっと伸びるのでは」と誘いを受け、地元のスイミングスクールの健常者コースに加入。競技の世界へ飛び込んだ。

練習量は週6回に増えたが「パラはあまり考えていなかった」。それでも恵まれた体格を生かした力強いストロークを武器に、国内外の大会で次々と好成績をマーク。18年に日本知的障害者水泳連盟の強化指定選手に選出されると、19年世界選手権100メートル平泳ぎ(SB14)で世界新記録を叩き出し、東京大会の切符を勝ち取った。

ただ、東京大会がコロナ禍で1年延期となり「自信に満ちあふれていたけど、延期後はモチベーションの維持が大変難しい」と失意に暮れた。とはいえ、立ち止まるわけにはいかない。延期の期間は課題とする持久力の向上を目指し、練習量を増やした。当然、練習に身が入らないときもあるが「ゲームをしたり、お気に入りのお店で食事をしたりしている」と息抜きをしながら自分のペースで歩みを進めてきた。

間近に迫った大一番に向けては「障がいがあってもなくても、誰もが輝けるような共生社会の実現を伝えたい。自己記録を更新して、金メダルを獲得したい」ときっぱり。2年越しの思いを胸に、表彰台のテッペンをつかみ取る覚悟だ。

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