活動的な小惑星「ファエトン」はナトリウムの蒸気を噴出している?

【▲ ナトリウムの蒸気を噴出する小惑星「ファエトン」を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC)】

彗星のように細長い楕円形の軌道を約1.4年周期で公転している小惑星「ファエトン」(3200 Phaethon、フェートンとも。直径約5.8km)は、太陽に近付くと明るさを増したり塵を放出したりすることから、彗星と小惑星の中間的な天体「活動的小惑星」として知られています。毎年12月14日頃には三大流星群のひとつ「ふたご座流星群」が極大を迎えますが、その母天体(流星のもとになる塵を放出した天体)はファエトンだと考えられています。

彗星は太陽に近付くとが気化してガスや塵を放出しますが、小惑星は岩だらけの天体です。では、ファエトンの塵はどうやって放出されているのでしょうか。アメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所(NASA/JPL)・赤外線観測処理解析センター(IPAC)のJoseph Masiero氏らの研究グループは、ファエトンの活動にナトリウムが関わっている可能性を示した研究成果を発表しました。

■気化したナトリウムが活動の原動力か

【▲ 水星~火星までの惑星とファエトン(3200 Phaethon)の公転軌道および2021年8月19日時点での位置を示した図。ファエトンは水星よりも太陽に接近することがわかる(JPLの小天体データベースより。Credit: NASA/JPL)】

ファエトンの軌道の一部は水星の公転軌道よりも内側にあり(最接近時の距離は0.14天文単位)、研究グループによると、その表面温度は摂氏750度まで加熱されるといいます。このような軌道を描くファエトンの表層からは、水・二酸化炭素・一酸化炭素といった彗星の活動に関わる揮発性物質は、ずっと昔に失われているでしょう。しかし、小惑星の岩石に比較的豊富に含まれているナトリウムが太陽へ接近した時に気化しているとすれば、亀裂からナトリウムの蒸気が噴出する際に、岩の破片を宇宙空間へ放出することが考えられるといいます。

そこで研究グループは、1969年にメキシコへ落下した「アエンデ隕石」の試料を使い、ファエトンの自転周期(約3時間)や表面の最高温度を模して加熱する実験を行いました。その結果、試料からはナトリウムが放出されたいっぽうで、他の元素は残されていたといいます。研究に参加したJPLのYang Liu氏は、実験結果について「私たちのモデルに一致しているように見えます。これと同じことがファエトンで起きているかもしれません」と語ります。

■ふたご座流星群の観測結果とも一致

この結果は、ふたご座流星群の観測結果とも一致するといいます。流星のもとになる塵が大気圏に突入すると大気との摩擦で摂氏数千度まで加熱され、マグネシウムや酸素は緑色、窒素は赤色、ナトリウムはオレンジ色といったように、塵に含まれている原子や分子が光を発します。つまり、流星の色を分析することで、流星のもとになった塵の組成を知ることができるのです。

研究グループによると、ふたご座流星群のもとになる塵にはナトリウムが少ないことが知られていて、母天体から放出された後に何らかの理由でナトリウムを失ったと考えられてきたといいます。今回の研究結果は、太陽接近時に増光するファエトンの活動性塵が放出される理由だけでなく、ふたご座流星群にナトリウムが少ない理由も説明できることになります。

なお、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2024年度の打ち上げを目指して準備を進めている深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」のミッションでは、ファエトンを高速でフライバイしつつその表面を撮影したり、周辺の塵の組成を調べたりすることが予定されています。DESTINY+によるファエトンのフライバイ探査では、今回の研究成果にも関わる情報が得られるかもしれません。

【▲ ファエトンをフライバイ探査する「DESTINY+」を描いた想像図(Credit: JAXA/カシカガク)】

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC
Source: NASA/JPL / JAXA
文/松村武宏

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