井上陽水と安全地帯が互いに送り合ったエール「夏の終りのハーモニー」  特集:夏の終わりに聴きたいとっておきの1曲

ジョイント・コンサートのために書き下ろされた「夏の終りのハーモニー」

年ごとに夏の暑さが増していることを体感する。そのおかげで、以前ならお盆過ぎには感じることができた “秋の気配” が、少しも感じられないまま9月の声を迎えてしまうようになってきた。

それでも、夏の終わりを意識する頃に聴きたくなる曲というものはあって、「夏の終りのハーモニー」もそのひとつだ。幸せだった時間を惜しむような感覚が、情熱と諦観が入り混じるなかからにじみ出てくるこの曲は、ひとつの季節の終りを自分の中で思い切るにふさわしい。

「夏の終りのハーモニー」は1986年8月20、東京・神宮球場での初の音楽イベントとして行われた井上陽水と安全地帯のジョイントコンサート「STARDUST RENDEZ-VOUS」のために書き下ろされた曲(作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二)で、このコンサートの最後を飾ったアンコール2曲目で初披露された(ちなみにアンコールの1曲目は「飾りじゃないのよ涙は」だった)。

井上陽水と安全地帯、音楽的交流を重ねて…

井上陽水と安全地帯とが出会ったのは1981年、安全地帯はまだデビュー前だったが井上陽水がかつて所属していたキティレコードからのデビューが決まったというタイミングだった。当時の井上陽水は “フォークの旗手” として大ブレイクした大きな波が一段落して、いわば次の波を待つ “凪” の時代にいた。彼らを仲介したのはアレンジャーの星勝だったという。

安全地帯は1981年の井上陽水のツアー「I CALL YOUR NAME」(11月~12月)にバックバンドとして参加し、その後も井上陽水の演奏活動をバックアップしていく。その一方で、井上陽水が楽曲提供した「ワインレッドの心」(1983年 作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二)の大ヒットで安全地帯自信もブレイクし人気バンドとなるが、その後も彼らは「恋の予感」(1984年 作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二)を共作するなど、音楽的交流を重ねて行った。

そしてこの間、井上陽水も「ジェラシー」(1981年)「リバーサイド・ホテル」(1982年)、さらにはセルフカバーアルバム『9.5カラット』(1984年)などで再び大きな脚光を浴びる存在となっていた。

神宮球場で開催されたビッグイベント「STARDUST RENDEZ-VOUS」

そんな二組によるビッグイベントとして計画されたのが『STARDUST RENDEZ-VOUS』だった。もともとは球場を野球以外にも開放したいという神宮球場側の意向があったという。しかし、うるさい音楽は好ましくない。井上陽水ならとの申し出を受けたキティ・ミュージック代表の多賀英典が安全地帯とのジョイントコンサートを企画した。

その背景には、当時あまり例のなかったスタジアムコンサートを開催するにあたって観客動員が読めなかったため、この二組を一緒にステージに立たせることでイベントを成功させようという大人の事情があったのだという。

井上陽水は最初、この提案に難色を示したともいう。それぞれがしっかり自立して活動できる状態にある中、あえてジョイントコンサートをする必要性が見えないということだったようだ。

しかし、多賀英典の説得によって最終的に井上陽水もコンサートを了承。そして、井上陽水と玉置浩二によってこのイベントのためのスペシャル企画として新曲がつくられることになった。それが「夏の終りのハーモニー」だった。

ライブイベントのエンディングを飾った「夏の終りのハーモニー」

安全地帯と井上陽水がそれぞれ代表曲を披露し、さらに第三部ではともにステージに立って大きな盛り上がりを見せたライブイベント。「夏の終りのハーモニー」は、まさにそのエンディングを飾るにふさわしい曲だった。

しっとりとした美しいバラード、それが類まれな美声の持ち主である井上陽水と玉置浩二によってていねいに歌い上げられていく。その歌声が、まさに夏から秋に向かおうとする夜空に吸い込まれていく。それは、球場を埋め尽くした観客の心に、充実感とともに祭りの後のさみしさをも含んだ余韻のように沁み込んでいったに違いない。

さまざまなシンガーがカバー、夏の終りを味わえる曲として生き続ける

「夏の終りのハーモニー」はライブ後に改めてレコーディングされ、9月25日にシングルとして発売された。名義は井上陽水・安全地帯と連名だったが、実質的には安全地帯のシングルとして発売されている(B面の「俺はシャウト!」も作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二)。

また11月にはライヴアルバム『STARDUST RENDEZ-VOUS / 井上陽水・安全地帯』(コンサートで演奏された全33曲中12曲を収録)、さらには同じ月にライヴ映像として『スターダスト・ランデヴー / 井上陽水・安全地帯』もリリースされたが、そのすべてに「夏の終りのハーモニー」は収められている。

その後、「夏の終りのハーモニー」が井上陽水と玉置浩二のデュエットで歌われる機会はあまり無いが、それにもかかわらずこの曲はまさに “夏の終り” を感じさせる名曲として多くの人に聴き続けられているだけでなく、さまざまなシンガーによってカバーされている。それも、けっして80年代を懐かしむためではなく、今年の夏の終りを味わえる曲として生き続けているのだ。

そんな曲そのものの魅力を純粋に味わうのが「夏の終りのハーモニー」の最高の聴き方だということはもちろんだけれど、困難な時代を共に過ごした後それぞれの道を進んでいった井上陽水と安全地帯(玉置浩二)がお互いに送り合ったエールというニュアンスも意識して聴いてみるのも味わい深いんじゃないかと思う。

カタリベ: 前田祥丈

あなたのためのオススメ記事シンガーとしての際立つ力、井上陽水のセルフカバーアルバム「9.5カラット」

▶井上陽水の記事一覧はこちら!

▶安全地帯の記事一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC