FIA、F1ピットストップ機具の共通化を計画も、レッドブルとメルセデスの反対で断念

 FIAはF1において共通パーツを多数導入していく意向を持っている。しかし、2022年に全F1チームにピットストップ作業に関連する機具を供給するサプライヤーとの契約が、先週、一部チームの反対により中止された。

 安全性を高め、F1チームのランニングコストを削減するため、FIAはピットストップ作業にかかわる機具、つまりホイールナット、ホイールガン、それらの関連技術の供給に関して、入札手続きを実施、イタリアのディノ・パオリ社が落札した。同社はピットストップギアの供給において豊富な経験を持っており、NASCARと同様の契約を結んでいる。ディノ・パオリ社は、ピットストップにおける安全性を大幅に向上させ、ピットストップ後にマシンを安全にリリースさせることを保証するシステムの提供も提案していた。

 そのシステムでは、すべてのホイールガンにセンサーが取り付けられ、ホイールがマシンに正しく装着されたかどうかを自動的に識別する。そして、4つのセンサーすべてがOKサインを出したときに初めて、チームはマシンを発進させることができる。このセンサーは、各チームがそれぞれ開発してきた信号システムにも接続され、危険なリリースというミスを防ぐ。

 これらのセンサーは、レースディレクターに瞬時に情報を伝え、それによりレースディレクターは全ピットストップをリアルタイムで監視することができる。だがそれを低価格で実現するため、ディノ・パオリ社により提案されたホイールナットとホイールガンでは、現在F1で成し遂げられている2秒台のピットストップを行うことができなくなる見込みだ。その点で、レッドブルおよびメルセデスをはじめとする一部チームが抵抗を示した。

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP メルセデスとレッドブルのピット

 FIAがすべてのピットストップマテリアルを2020年イタリアGP後にホモロゲートし、今シーズン末まで保持させることを決めた際、レッドブルは、多額の予算を使って、定められた期日までに新しいマテリアルとテクノロジーを手に入れた。それが現在、2秒以下のピットストップを実現するための基礎となっている。それを考えれば、レッドブルがピットストップに関する共通パーツの導入に抵抗するのは理解できる。

 FIAが全F1チームに共通パーツを供給するサプライヤーを決定した後で、これをキャンセルせざるを得なくなったのは、最近ではこれが2回目だ。2019年末、ブレンボは全F1チームへのブレーキングシステムを独占的に供給する契約を獲得したが、いくつかのトップチームが反対したことで、昨年の今頃、同社には取り消しの通知がなされた。

 もちろん、F1において技術、イノベーション、独立性は重要であり、トップチームには共通パーツ導入に抵抗し続ける理由がある。だがそれが、F1チームのランニングコストを大幅に引き下げるというFIAの狙いを阻害していることも事実だ。

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