なぜ強い?関西で広がる維新支持 サウナ、署名偽造…不祥事続出でも選挙で躍進

日本維新の会の松井一郎代表(右)と吉村洋文副代表

 衆院議員の任期満了まで、残り2カ月を切った。総選挙が近づく中、関西では大阪に本拠地を置く日本維新の会がじわりと支持を広げている。7月の兵庫県知事選は大阪府外の首長選で初めて党推薦候補が当選し、他の地方選挙でも得票数の大幅増、議席の積み増しと好調続きだ。ただ足元では党関係者の不祥事が相次ぎ、刑事事件に発展するケースも散見される。逆風を呼び込みかねない状況にもかかわらず、なぜ維新は有権者の支持を得られるのか。この勢いは、衆院選での党勢拡大につながるのか―。(共同通信=山本大樹)

 ▽大阪からしみ出すように支持拡大

 「今までは大阪の色が強すぎたが、少しずつ関西というエリアにね、われわれが大阪でやっていることに対しての評価が広がってきている」「(維新の)支持率も上がってきているということは、衆院選も背中を押してもらう形を作れるのではないか」。7月18日に投開票された兵庫県知事選の2日後。推薦候補の斎藤元彦氏が当選したことを受け、維新代表の松井一郎大阪市長は記者団にこう語り、隣県での支持拡大に自信を見せた。

 知事に就任した斎藤氏には自民党も推薦を出したが、自民県議団の多数派は党本部の決定に反し、井戸敏三前知事に近い金沢和夫元副知事の支援に回った。実際、共同通信の出口調査では、自民支持層の約半数が斎藤氏に投票する一方、4割近くは金沢氏を選んでいる。自民票が二分される保守分裂選挙の中で、勝敗を決する大きな要素となったのが維新の動きだ。

兵庫県知事選で維新が推薦した斎藤元彦氏(中央)を応援する松井氏と吉村氏

 斎藤氏は総務省出身で2018年から3年間、大阪府財政課長に出向した。19年3月まで知事だった松井氏は、斎藤氏の出馬が取りざたされ始めた直後から「非常に優秀。(生まれ育った)兵庫への熱い思いもある」と持ち上げ、本人が出馬表明するといち早く推薦を決めた。選挙戦でも松井氏や現大阪府知事の吉村洋文副代表が応援に入り「大阪と兵庫の連携」をアピール。斎藤氏は大阪府に近い西宮市、尼崎市といった阪神エリアなどで他候補を突き放し、県全域で見ても維新支持層の8割以上に浸透した。結果を見れば、維新の影響力の強さは明らかだ。

 兵庫県知事選だけではない。4月の同県宝塚市長選では、敗れはしたものの維新公認の元県議が、本命視された前市長の後継候補に約1600票差まで迫る大接戦を演じた。6月の尼崎市議選(定数42)では改選前より三つ多い10議席を獲得し、自民を上回り第2会派に。7月の奈良市議選(定数39)でも公認候補4人が全員当選した上、いずれも得票数で5位以内に入った。大阪からしみ出すように支持が広がりつつある。

 ▽相次ぐ刑事事件も「個人の資質」

 だが、こうした選挙と同時並行で、党内では深刻な不祥事が相次いでいる。

 昨年実施された大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造問題では、運動事務局長の田中孝博被告が地方自治法違反(署名偽造)容疑で逮捕、起訴された。田中被告は問題が発覚するまで維新に所属しており、次期衆院選の公認候補予定者である衆院愛知5区支部長も務めていた。

愛知県知事リコール運動の署名偽造事件で逮捕、起訴された田中孝博被告。今年2月まで維新の衆院愛知5区支部長だった。

 本拠地の大阪府内では、地元組織「大阪維新の会」に所属していた池田市の冨田裕樹前市長(昨年11月に離党)が市長室への家庭用サウナの持ち込み、市職員へのパワハラ問題などを受け7月に辞職。市議会は、疑惑を追及する調査特別委員会で虚偽証言をしたとして、大阪地検に地方自治法違反(偽証)容疑で告発状を提出している。

市役所への家庭用サウナ持ち込み問題などを受けて辞職した大阪府池田市の冨田裕樹前市長

 他にも過去1年を振り返れば、公然わいせつ容疑で逮捕された東京都港区議、身内に暴行し傷害容疑で書類送検された大阪府議など、党所属の政治家や関係者が絡む刑事事件が何度も起きている。事件が明るみに出るたび、松井氏や吉村氏は「有権者の皆さまにはご迷惑をおかけして申し訳ない」と陳謝する一方、「個人の資質の問題だ」として党が主体的に事実関係を調査、公表することはなかった。

 ▽市民目線で厳しい身内批判

 これだけ不祥事が相次ぎながら、なぜ選挙に影響しないのか。

 党内では「吉村人気」が支持を押し上げているとの見方が多い。吉村氏は昨年から新型コロナウイルス対応でテレビ出演が急増し、知名度も上昇。街頭演説に立てば、スマートフォンで撮影する聴衆にぐるりと囲まれる。大阪の地方議員らは「駅前で演説していても以前より声を掛けられるようになった。ビラもどんどんはける。吉村効果だろう」と話す。

 創設者である橋下徹氏の時代から維新を取材するノンフィクションライターの松本創さんは、トップとしての松井、吉村両氏の対応が一つの鍵とみる。「不祥事が起こると、2人は責任者として謝罪する一方で、二言目にはぱっと身を翻し、市民目線で『けしからんことだ』と厳しく批判する。ずるずる引きずる自民党と違い、離党や除名処分もちゅうちょしない。この危機管理対応が、有権者の目には『しっかりしてはる』というふうに映る。だから何度繰り返しても組織には目が向かず、個人の問題で片付けられてしまうんじゃないか」

ノンフィクションライターの松本創さん

 有権者の政治行動を分析する関西学院大の善教将大(ぜんきょう・まさひろ)教授は「そもそも維新支持層にとって、維新の候補者や議員が品行方正かどうかは評価基準になっていないのではないか」と指摘する。大阪で維新が支持される主たる理由は、現在の吉村・松井体制のように、府と大阪市がうまく調整しながら一体となることへの期待感にあると指摘し「そこが崩れない限り、関西での支持動向に大きな影響はない」と言う。

 ▽代表どうなる?「正念場は衆院選後」

 関西で勢いに乗る維新だが、他の地域では一転、苦戦を強いられている。7月4日の東京都議選では13人の公認候補を擁立したが、当選したのは1人だけ。全員の得票数を合計しても約16万6千票と、投票総数のわずか3・5%にとどまった。善教教授は「全国的な規模でみると維新の支持率は伸び悩んでいる。関西以外では、都市部も地方も支持者は少ない」と話す。次期衆院選では大都市圏を中心に70人超を擁立するが、関西以外はどこも厳しい戦いになりそうだ。

 党内では「われわれにとって本当の正念場は衆院選後」と見る向きもある。昨年11月、結成以来の宿願だった「大阪都構想」が2回目の住民投票で再否決されたことを受け、松井氏は2023年4月までの市長任期を全うした上で政界を引退すると表明した。党代表の任期はそれより早く、次期衆院選の投開票日から90日で切れる。

大阪市役所で取材に応じる松井氏

 8月5日、大阪市の定例会見で衆院選後の対応について問われた松井氏は「代表は党員投票などで選出するというルールがある。そのルールに沿った形でやっていく」と述べるにとどめ、続投するかどうかは明言しなかった。ただ大阪のベテラン議員に話を聞くと、複数の面々が「松井さんの性格を考えれば、今の任期を終えたら代表も降りるだろう。次の代表選には手を挙げず後進に譲ると言い出すのではないか」と口をそろえる。

 後継に台頭著しい吉村氏を推す声もあるが、党内には「代表は国会議員が務めるべきだ」との異論もある。カリスマだった橋下氏の引退後、強いリーダーシップで組織を引っ張ってきた松井氏の後を継ぐのは、誰であっても難しいという見方も多い。代表退任に踏み切ろうとしても、続投を求める声が高まるのは必至だ。果たして松井氏はどう判断するのか。その去就が党の動向を大きく左右するのは間違いない。

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