グロージャンが見せた順応性と持ち前の速さ。今週末のオーバルデビューで更なる飛躍へ

 2021年のNTTインディカー・シリーズにF1から来た“ルーキー”ロマン・グロージャンは、12戦が終わった時点でポイントランキング15番手につけている。この数字だけを聞くとパッとしない成績と勘違いをしてしまう。彼はオーバルレースに出場していないことを忘れてはいけない。

 昨シーズン終盤にF1で大事故を経験したばかりの彼は、“家族に心労をかけぬように”とデビューシーズンはオーバルで走らないことを決め、テキサスでのダブルヘッダーとインディアナポリス500マイルは欠場。インディ500はダブルポイントップなので、フルエントリー組よりグロージャンの消化レース数は4つも少ない。ランキングは15番手でも、おおいに活躍をしてきているのだ。

 グロージャンはインディカーデビュー戦で予選7番手、決勝10位という結果を残した。予選では惜しくもファイナル進出を逃し、レースではいきなりのトップ10フィニッシュで注目を浴びた。

 次戦セント・ピーターズバーグのストリートの後、インディアナポリスモータースピードウェイのロードコースで彼はポールポジションを獲得した。

インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコース戦で初ポールを獲得したロマン・グロージャン

 参戦開始からたった3戦目でのPP。レースでも2位フィニッシュを果たした。インディカーで走り出して3戦目で表彰台にも上ったのだ。見事な順応ぶりと言える。経験が豊富な上に、非常にクレバーなドライバーであることが証明された。このまま行けば、デビューシーズンに初勝利を挙げても誰も驚かないだろう。

 グロージャンの活躍を支えているは、担当エンジニアのオリビエ・ボアップソンだ。名前から察せられる通り、彼はフランス人。以前在籍していたセバスチャン・ブルデーの置き土産で、グロージャンは英語も堪能だが、ボアッソンとセッティングの細かな部分、フィーリングなどについて母国語でコミュニケーションが可能な点がプラスに作用している。

 デイル・コイン・レーシングは小規模チームだが、侮ってはいけない。もう何年もコースを選ばず速い存在であり続けている。その安定ぶりは、チップ・ガナッシ・レーシングに次いでシリーズ2番手……と評価していいぐらいだ。リザルトに繋がり切っていないが、多くのコースでチーム・ペンスキーやアンドレッティ・オートスポートに対抗できるスピードを見せてきている。

エンジニアのオリビエ・ボアップソンと話すグロージャン

 グロージャンの注目度はアメリカのファンの間でも高い。アメリカで人気を獲得するためには“目に見えて速い”ことと、“人間としてキャラクター”が重要になる。

 グロージャンはデビューと同時にスピードを見せ、アメリカのレースに対してポジティブな評価をしていることを語り、インディカーの激しいバトルをエンジョイしている姿を見せた。

 ファンとの交流、アメリカでの仕事と生活をおおいに楽しんでいるところが好感度に繋がり、彼を応援する声は高まっている。

 アメリカで与られたチャンスに感謝している彼だが、アメリカという国がもともと好きなのか、シーズン中のオフを利用して、中西部を旅してもいる。デトロイト、シカゴ、シンシナティ、インディアナポリス、ルイビル、セントルイス、ナッシュビルといったメジャーな都市を周り、ウィスコンシン州やインディアナ州の北部も訪れたそうだ。

 フランスで暮らしている家族をアメリカに呼んでのことだ。大型モーターホームと、ハーレー・ダビッドソンに乗って……といういかにもアメリカンな旅。その間にグロージャンの子供たちは野球に興味を持ったという。

“アメリカを知ろう”としている。そんな真摯な態度がファンを喜ばせている。しっかりとした考えを持っている彼は、ファンやメディアの投げかける質問に対する受け答えも率直だ。

 褒め過ぎと思われるかもしれないが、成功するドライバーたちはアメリカのレース、インディカーに対する認識が正しい。フェルナンド・アロンソもインディ500に対して敬意を払っていることでアメリカ人に受け入れられている。

ファン対応も笑顔で行うロマン・グロージャン

 グロージャンは2シーズン目からはオーバルレースへの参戦も解禁すると言われている。今シーズンのインディカー・シリーズにスケジュールされたオーバルレースは4戦と少なく、その最初の2レースが前述のテキサスダブルヘッダーだった。その後にインディ500が続いた。

 エアロスクリーン装備でインディカーの安全性が大幅アップしているとはいえ、リスクがゼロになっているわけではない。テキサスとインディのスピードは非常に高く、昨シーズン終盤に大きな事故を経験したばかりのグロージャンは高速オーバルでのレース出場を避けることと決めた。F1での事故の前にインディカー行きを決めていた彼は、オーバルも含めた全戦に出場する予定だった。

 そんなグロージャンが今週末のゲートウェイで初めてのオーバルレースに出場する。7月中にテスト走行を行い、ショートオーバル用のルーキーテストもクリア。まずはスピード低めのショートオーバルで走ることになった。これは非常に理論的な考え方、そしてアプローチだ。

 果たして初オーバルでのグロージャンはどんな走りを見せるのか。デビューシーズンの最初から見せている目覚ましい活躍からすると、オーバルでもかなりの戦闘力を発揮しそうだ。

 そして、能力の高さをすでに証明しているグロージャンには、2シーズン目にビッグチームに移籍するという噂が流れている。

 その行き先は、アンドレッティ・オートスポート。それも、エンジニアのボアッソンを引き連れての移籍になるとの説まである。

 デイル・コイン・レーシングもインディ500を決して不得意にしてはいないのだが、アンドレッティからの出場なら、インディ500でも初挑戦からアロンソのように優勝争いに加わっていくことと期待ができる。そうなれば、グロージャンはインディカー転向2年目にしてチャンピオン争いに絡むかもしれない。

ゲートウェイで初オーバルテストを行ったロマン・グロージャン

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