その3 妥協しない親の姿勢

現地邦人の子どもたちに向けて日本語教育を行っている皆本みみさん。「みみ先生」からニューヨークでの日本語教育について大切なことを伝えていく連載。**

さて、前回は「自立心」をはじめ、子どもにとって大切なものをいくつか挙げてきましたが、他に忘れてならないのが「健康」と「体力」です。学力だ、集中力だ、判断力だと騒いでみても、結局健康でなければなんにもならないからです。 そういった意味で、睡眠はとても重要になってきます。そして良い睡眠を取らせるためには、よく遊ばせること。つまり、幼い頃から適度な運動をさせることも必要なのです。そしてなんと言っても健康の元は食事です。人間の体は食べたものでできています。毎日の食事は本当に大切です。 お菓子の誘惑 わが家では、お菓子の存在が薄かったように思います。それは、3度の食事をしっかり取っていて、お菓子を食べる必要がなかったからでしょう。しかし、お菓子というものは、見た目でも楽しいものが多く、子どもたちを誘惑します。お菓子をめぐるこんな出来事がありました。 マーケットに行くと、ちょうどいい高さ、つまり子どもの目の高さに色とりどりのキャンディーやチョコレートなどのお菓子類が置いてあります。はじめは、娘たちもよくおねだりをしました。「マミィ、これほしい」と、かわいらしい声で。しかし、そこは私のこと。絶対にダメ! そこに一分の妥協もありませんでした。 が、ある日、おねだりの現場に出くわせた知人の女性が、見るに見かねたのでしょう。「あら、私が買ってあげるわ」と救いの手を差し伸べてきたのです。いえ、違います。子どもたちには救いの手かもしれませんが、それは一時的なものであって、本当の救いではありません。 ささいなことだと思う人もいるでしょうが、実は、こういうなんでもないことが、後々の子育てにまでかかわる重大事なのです。たった一回でも妥協したら、次マーケットに行った時に、同じことをしやすくなってしまうからです。子どもだけでなく、親のほうもです。なぜなら、子どもの言うことを聞いてあげるほうがずっと楽だからです。 しかし、これでは家庭内での主導権は子どもが握ることになり、そのような状態ではとても日本語の勉強などに手が回るはずもありません。

筋を通すことが大切 一時が万事。お菓子が欲しい時、勉強が嫌な時、子どもは必ず交渉をします。そのたびそれに流されていては、生活はやがて子どものペースで進み、肝心なことがおろそかになってしまいます。 子どもにとって大切なもの。最後は、「親の姿勢」で締めくくりたいと思います。ただかわいがるのではなくて、筋が通っていればなんの問題もないのです。これをしたらいけない、あれをしたら叱る、というように絶対に妥協しないという姿勢を親がしっかり持っていればいいのです。 日本に帰国した際、こんな親子を見かけました。マーケットの入り口の所で、幼い男の子が大泣きしていたのです。若いお母さんが、その子をなだめていました。どうやらその子は、アイスクリームをねだっているようでしたが、お母さんの「もう3本も食べたんだからよしなさい」という言葉に耳を疑いました。いくらなんでも3本は多いでしょう。 しかし、驚くのは早かった。なんと、買い物を終えて外に出ると、その男の子の手には、4本目のアイスクリームがしっかりと握られていたのでした。 ※このページは、幻冬舎ルネッサンスが刊行している『ニューヨーク発 ちゃんと日本語』の内容を一部改変して掲載しております。

皆本みみ

1952年、東京都八丈島生まれ。 79年に来米。 JETRO(日本貿易振興会)、日本語補習校勤務を経て公文式の指導者となり、シングルマザーとして2人の娘をニューヨークで育てる。 2007年『ニューヨーク発ちゃんと日本語』(幻冬舎ルネッサンス)を上梓。 現在もニューヨークで日本語の指導者として活動中。

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