田原俊彦「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」変わらないために技を磨くプロのアイドル  2021年8月18日 田原俊彦「オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021」リリース!

退屈な日常から知らない街に連れ出してくれそうなヒーロー、田原俊彦

トシちゃんは “好きな男の子” 然としていつも私の前に現れる。「ずるいんだから」と思うことばかりだ。なぜか以前にも会った気がするし、なぜか前から好きだった気がしてくるから不思議である。その明るさにキュンとする。どこまでもスターなのに、いかにも “クラスメイトの人気者” という空気が漂っているのだ。

男友達とじゃれているのが似合うし、バレンタインに女の子からチョコをもらいまくってもイヤミじゃない。えへへ、と笑いながら、「ありがとね~」と受け取ってくれるし、そしたらもっと好きになってしまうだろう。多分、近所のうちのお母さんにも明るく挨拶してくれる。登校中にすれ違いざまに私にちょっかいをかけてきたりするから「もうっ!」とか言いかえしたい。

同名映画の主題歌「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」

… と、私がトシちゃんに抱くイメージは “どこまでもチャーミングで、いたずらっぽい男の子”。まぶしい、ひたすらにまぶしい。お人形的な佇まいの王子様とはまた別系統だけど、退屈な日常から知らない街に連れ出してくれそうなヒーロー。極めて少女漫画っぽくもある。

「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」は、そんなトシちゃんらしさがよく利いているな、と思う曲だ。メロディラインと、その歌詞から跳ねるような少年っぽさと、そのまま腕の中に滑り落ちてしまいそうな危うさが表現されていると思う。サビは、決めポーズを取れるようなタメがあって、トシちゃんの大きくキレのあるダンスも映える。

お姉さんに誘惑されながらも、持ち前の大胆さでトシちゃんのペースに持ち込んでしまう。そんな「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」は1983年11月18日発売の16枚目のシングル。そして、東映配給の同名タイトルの映画の主題歌で、劇中ではトシちゃん初のキスシーンがあったという(お相手は多岐川裕美)。

「あせるぜ」と心中を歌う素直さがいい

だからだろうか、イントロからサックスのスウィングがセクシーだ。ドラムが刻むリズムに合わせて自然と体も揺れる。私が特に歌詞が好きなのが2番。

 I want you baby あせるぜ
 肩をすくめてささやく ハスキーボイス
 男心 微妙にそそるね君は
 可愛い悪魔さ
 移り気な恋だと他人は言うけど
 本当はロンリーガール
 隠せないよ瞳の翳りは 僕に
 本気になりそうさ

トシちゃんに囁きかける大人の女性が浮かぶ、声がハスキーで、少し影がある、小悪魔のような人。素直に「あせるぜ」と心中を歌ってしまうトシちゃんが可愛らしい。

 優しく 冷たく(アイ・シー)
 スリルで 愛して(イエス・ボーイ)
 君のマシュマロ 溶かしたいね
 派手目のキッスで とりあえず

好きな相手の瞳の奥に寂しさを見てしまうのは、恋をしているとやりがちなことだったりもするけど、あえてそこにつけこんだり、救ったりもしようとせず、誘惑に溺れるわけでもなく、派手目のキッスで反撃をくらわすトシちゃんのおちゃめな一面がうかがえる。

変わらないために技を磨き続ける “プロの” アイドル、田原俊彦

恋はバトルかもしれない。色仕掛けですり寄ってこられたら、真っ直ぐで大胆なアピールで形勢逆転を狙う。それもまた愛の武器なのだ。

挙句「マシュマロ溶かしたい」だなんてロマンチックで、果てしなくポップスターだ。太陽みたいな男の子に「派手めのキッス」で溶かされたらどうなってしまうのだろう。ただただまぶしいものが全てを救ってしまうことがあるのかもな… とトシちゃんを見るとそう思えたりする。

そんな強すぎる光は、未だ尽きることがない。表舞台に出続ける女性アイドルとして永遠に「ちゃん」付けで呼ばれることに成功したのは、ご存知聖子ちゃんであるが、男性アイドルでいえばトシちゃんなのではないだろうか。

過度に大人びたアレンジを加えることもなく声にも当時の色合いを残している。茶目っ気たっぷりにメドレーをやりきる。“永遠の” アイドルとは、変わらないために技を磨き続ける “プロの” アイドルなのではないかと思う。

カタリベ: ミヤジサイカ

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