女子高校野球の未来占う「史上初の甲子園開催」 舞台に立つ監督の“複雑な思い”

高知中央・西内友広監督【写真:川村虎大】

女子野球史上初の甲子園開催、高知中央は神戸弘陵と決勝を戦う

高校球児の憧れの場所に、女子選手たちがついに立つ。23日に開催される全国高校女子硬式野球選手権大会決勝は、史上初めて阪神甲子園球場で行われる。女子球界にとっては、歴史的な一歩。元女子プロ野球選手や実業団・クラブチームに所属する選手らは、喜びを口にする。ただ、実際に決戦の舞台で神戸弘陵と戦う高知中央の西内友広監督は、難しさも感じている。【川村虎大】

「女子野球の発展にとっては絶対に必要。でも、いざ戦うってなると難しいですよね……」。複雑な思いが胸に去来する。「夏の甲子園」の開催期間に、日程の合間を縫って開催される女子の決勝。当初は、休養日の24日に予定されていたが、雨天の影響で休養日が潰れ、度重なる変更をへて23日になった。準決勝が行われた8月1日から、3週間以上空くことになる。

「神戸弘陵さんみたいに強いチームだったらいいと思うんですけど。自分たちは勢いで勝ってきた部分もある。それが3週間も空くとなると、選手らも1度リセットになってしまって……」。今春の全国高校女子硬式野球選抜大会でベスト4まで勝ち上がった神戸弘陵は、今月前半に松山で行われた全日本女子硬式野球選手権大会で実戦経験を積んでいた。一方の高知中央は、雨天の影響で室内練習場での限られた練習が続いていた。

「色々な方から『甲子園おめでとう』という連絡がたくさん来たんです。とても嬉しいことではあるんですけど、自分はそもそもそこを目指してやってきたわけではない。決勝を戦う場所が甲子園というだけであって、ゴールではないんです」。そう語る西内監督は、高知・安芸高時代は甲子園を目指していた球児だった。

女子野球に携わり「甲子園は1度捨てました」

思い出すのは3年夏。阪神などで活躍した藤川球児氏を擁する高知商と対戦した。「9番・捕手」で出場したが、2打数無安打。チームも1-6で敗れ、夢は叶わなかった。大学卒業後は教員になり、高知中央の男子硬式野球部の顧問に。今度は指導者として甲子園を目指してきた中、考えが大きく変える出来事があった。それが女子野球だった。

「女子選手らはただ野球を楽しんで、上手くなろうとしていることに気づき、『甲子園だけが全てではないんだ』と感じました。その時に1度、甲子園というものは捨てましたから」。2016年には、高知・室戸高の女子野球部監督に就任。男子のような夢の舞台はなくとも、厳しい練習についてくる選手たち。上手くなる、試合に勝つ。そのことだけを求めて、指導を続けてきた。

2019年に高知中央に再び戻って創部した女子野球部は、3年目を迎えた。自ら全国を飛び回って部員集め。11人からスタートしたチームも、今では33人まで増えた。ただ、絶対的なエースがいるわけでもなく、優勝候補と呼ばれていたわけでもない。春に行われた全国高校女子硬式野球選抜大会では、初戦で埼玉栄に8回タイブレークの末1-3で敗退していた。

「だから、いざ突然言われても、戸惑いはあります。でも、今思うとそれが良かったのかな。選手らは違うかもしれないけど、僕は無欲だったから」と、丹波市で行われていた準決勝までを振り返った。春の選抜で優勝した開志学園(新潟)、準優勝の履正社(大阪)は、いずれも3回戦で敗退。高知中央は初戦以外全て1点差ゲームを勝ち上がり、優勝まであと1勝に迫った。

相手の神戸弘陵には最速123キロを誇る島野愛友利投手

女子野球に携わり、6年目を迎えた西内監督。史上初の「甲子園開催」を何としても成功させなければいけないという責務があることは、痛いほど分かっている。

「この大会が成功しないと、今後の女子野球の発展はまた元に戻っていってしまう。嬉しいことに、配信もあり、世間も注目している。その中で、見てくれる人が『女子野球って面白い』って思ってくれるような試合をしなければいけない。あとは、今後甲子園で女子高校野球が続いてくれば、必ず第1回大会として、ダイジェストで動画が出るじゃないですか。そうやって名前が出る場に立つことができるというのは、光栄なことですよね」

対する神戸弘陵は、中学時代に全国大会「ジャイアンツカップ」で胴上げ投手になった最速123キロを誇る島野愛友利投手がいる。女子野球の発展を考えると、少し本音も漏れる。「島野投手、スーパーですよね。将来の女子野球を担っていく選手。大袈裟かもしれないですけど、大谷(翔平)か、島野か。そのくらいになって欲しい。やられるなら、島野にやられたいですよね」。そうは言うが、もちろん目指しているのは日本一。「あと1勝なので。もちろん指揮を取る以上は全力で倒しに行きますよ」。負けるために行くわけではない。

もう、将来も見ている。「選手らが結婚して、子どもができたときに、『お母さんのように甲子園に行きたい』って子が目指してくれるような環境ができたら最高ですよね」。様々な気持ちを抱えながら、歴史的な舞台で指揮を執る。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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