私のがんは遺伝なの?一年越しの結論  両側乳がんになりました106

次の誰かのためにと綴っています。

乳がん3年生に進級

手術後の病理検査からまる2年。3年生に進級するための検査に行ってきました。2年、3年は節目。いつもより念入りな検査となります。

もうマンモグラフィはできないので、エコー検査で脇のリンパ節と肝臓などを確認。血液検査で腫瘍マーカーなどを確認。それに加えて、2年ということで全身のCTも受けました。

結果、無事に3年生に進級できました。今回はもうひとつ悩まねばならないことがありました。閉経前のため、卵巣の機能を止める、リュープリンを2年続けました。最低2年なので、ここから先どうするか。(ガイドラインでは2~5年となっています。)

先生と相談の上、副作用が想定内であることから少なくてももう一年は延長しようということになりました。打ったその日はぼーっとしますし、熱もあがり、ホットフラッシュがきつめにはなります。関節痛とでもいいましょうか、足がつきずらくなったり、たまに指も痛いぞ、と。でもホルモン陽性(強め)のがんということもあり、効果が期待できるということでリュープリンでの治療は継続することにしました。タモキシフェンは10年なのでもちろん継続、です。

遺伝子検査・・・忘れたころにやってきた

実は、これより前。4月の出来事でした。突然、大学病院の認定遺伝カウンセラーさんから連絡が。
『もう一度、検査が受けられますがどうされますか?詳しくは病院で。』

1年前、2020年の4月から保険適用が拡大された、BRCA検査。HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)かどうかを調べる検査をもう一度受けるかどうかというものでした。
昨年はインコンクルーシブ(Inconclusive)という結果で、BRCA1の一部になにかがあるように見えるけれどもわからない、と保留。

いずれにしても陽性でないと予防的切除も不要ですし、特別に治療の必要もないのでそのまま、という日々でした。そこにお電話、です。正直びっくりいたしました。

5月の末に改めて病院を予約し、札幌医大 遺伝子診療科の櫻井先生のもとへ。

櫻井先生『修正のレポートが来ました。やっぱり、インコンクルーシブなんですよ。陽性(pathogenic variant)でも陰性(Benign)でもない、VUS(variant of unknown significance・・・意義不明の変異)でもない。

インコンクルーシブは、そこにそれが存在するかどうかがわからない、決定的でない、ということ。

本当にあるものをみているのか、技術的に見えてないのか、わからない。

何か見えるんだけれども技術的に足りてなくて、ないものがあるようにみえているのかわからない。そういう状態。もう一回調べれば、あるかないかの可能性がわかるので検査しませんかということでした。

インコンクルーシブを減らしたいから、何か新しい方法でやるのだと思います。エクソン(exon)21-24の再解析を行うと書いてあります。』

という説明を受けて、陰性か陽性かどうか、わかるかわからないかもわからないけれど・・・。次の誰かのためになる可能性はあるなと感じて、もう一度血液検査を行いました。

※最初は再発時の適用になる、治療薬(オラパリブ)のコンパニオン検査から始まったBRCA検査。この検査は本当の未病の方には保険適用ではありません。卵巣がんはほぼ全員可能ですが、乳がんは一定のリスクと判断された人だけです。詳しくは下部リンクの診療ガイドラインをご参照ください。

一か月後、結果は・・・

1か月後、6月の末に再び病院を訪れました。

櫻井先生『インコンクルーシブで、修正レポートが来て、希望があれば再検査しますよとなって一か月がたちました。

今回は完全にネガティブ(陰性)でした。

これまでの方法とは別の方法でもう一回テストしたんだと思います。BRCAについては阿久津さんの場合は病的変異はないということになります。』

正直、喜びも悲しみも感じない・・・。いいも、悪いもない、そうでしたか、、、という受け止め、です。

阿久津『今後、もしも再発したときもオリパリブ(治療薬)が効くかどうかを調べることもないということですよね?』

櫻井先生『少し手間がかかる方法で別にやったんだと思いますが、(遺伝子は生涯変わらないので)
今後調べる必要はないです。』

先生に私自身の気持ちを聞かれました。

阿久津『すっきり、、ではない。。乳がんになった人のおよそ10%が遺伝性、、ということで私は残りの9割なのね、、って感じでしょうか。もやもやが残ります。』

櫻井先生『遺伝性乳がんというのは、今回調べたBRCAだけではないので他の遺伝的な要素が関わっている可能性は否定できない。乳がん、卵巣がんでも家族歴もなくて年齢家族歴をまったく考慮せず、BRCA1/2に病的バリアントが見つかるのは 日本人では4.16%。他の主な遺伝性も調べると約6%。確かに、30代で発症した方はBRCAの陽性率は高いです。

乳がんになりやすい遺伝子の存在はあって、民間の検査会社では調べることができる。コンパニオン検査として確立しているのはBRCAだけ。その他の遺伝子が原因と診断された場合、遺伝子ごとの特別な治療薬はないけれど、臨床的な特徴とか、他にかかりやすいがんなどの特徴はわかる。家族にも同じリスクがあるかもしれないことを伝えることができます。

BRCAほど、陽性の場合の発症率が高いものは現状見つかっていないのです。そして、個別の対応ができるアクション(治療薬)があるので検査としてあるということなのです。』

データによりますと(JOHBOC)、乳がん患者の中でHBOCと診断されるのは4.16%
逆に卵巣がんで検査を受けて判明するのは全体の14%だそうです。

進行した卵巣がんで見つかった人に絞ると4人にひとり、25%がHBOC。非常に率が高いといいます。

4人にひとりが陽性になる検査はあまりないですから、治療薬も含めたこの検査の意義がここにあります。

櫻井先生『ここまでの時間が長かったですからね。。。』

阿久津『ホントですね、長かったです。何か乳がんになったわけ、理由を探したくなるんです。HBOCだったら、そうか、そういうことかと納得しようとしていたのですが、陰性なので、婦人科治療のせいなのか、とまたもやもやが・・。』

櫻井先生『こう考えてみてはどうでしょう。細胞レベルでがんになるかどうか、それが体内で排除されずに
増えてしまうかどうかは、かなり偶然の要素が大きい。

これが真実に近いのではないかと思う。

BRCAに遺伝子変異があるかないかも運でしかない。

この遺伝性について、何も知らない時はその不安すらないけど、ちょっと知ると不安になる。でもそこから納得の段階にいくまでの知識や言葉が得られるかどうか。道筋もそれぞれ違うので課題はありますけれどもね。』

本当にカウンセリングの重要性がわかります。私は先生のこう考えてみてはどうでしょう、という言葉に救いがある、と感じました。そもそもの遺伝、というところからきちんとしたカウンセリングを受けてから
検査に移ること、そしてきちんと自分にとってのその意味を理解することが大切、です。

私は陰性、ネガティブでしたが、もしも自分がここでBRCA変異があったとします。確率的に考えて、予防的に卵巣をとるかとらないか、、と突きつけられてもすぐにそのジャッジができるわけではない。片側乳がんであれば、対側がなる確率を減らすためにジャッジできるかもしれませんが、私はすでに両側ない。なのであとは卵巣だとすると、なる確率は半分以下。これをどう見るか。リスク低減手術なので100%予防でもない。手術で会社を休む、卵巣を失う、副作用強くなるかも、でも予防はできるかもしれないなどなど。

自分がどう生きていきたいか、リスクをどう回避するのか。どんな治療でもどんな検査でも自分自身を納得させるために知識が必要だなと感じます。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)診療ガイドライン2021年度版(公開されたばかりです!)

http://johboc.jp/guidebook_2021/

【取材】櫻井 晃洋先生

札幌医科大学付属病院 遺伝子診療科長/臨床遺伝外来
新潟大学医学部卒 医学博士、臨床遺伝専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医

(文:阿久津友紀 乳がん患者)

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