過酷な運命に翻弄され…感涙必至の小池真理子の意欲作「神よ憐れみたまえ」

TOKYO MX(地上波9ch)の情報バラエティ生番組「5時に夢中!」(毎週月~金曜 17:00~)。7月29日(木)放送の「中瀬親方のエンタメ番付」のコーナーでは、新潮社出版部部長の中瀬ゆかりさんがおすすめのエンタメ作品を番付形式で紹介しました。

【"中瀬親方”による7月のおすすめ作品】

◆関脇
小説「疼くひと」
松井久子 著(中央公論新社)

物語の主人公は、古希を迎えた脚本家・唐沢燿子。70代に入り、日に日に老いを感じていたが、SNSで50代の年下男性と出会ったのをきっかけに生活が一変。燿子はその男性の言葉に一喜一憂し、身も心も溺れていく。果たして、大人の恋の行方は……。

中瀬親方のコメント「松井さんは脚本家や映画監督(OAでは脚本家のみの発言ですが、近年は映画監督としての活動のように見受けられたので加えております。ご判断願います)としても活躍されているんですけど、映画を通して老いや介護、女性問題を見詰めてきた方が初めて書いた小説です。

70歳になって"もう女として終わりかな”みたいに思っている人って結構多いと思うんですけど、これだけエロティックな性愛が成立して、ものすごく切ないんですよ。私も57歳ですから、なんとなく60歳が見えてきて、70歳なんてなったら"きっともう枯れているんだろうな”と思っていたんですけど、70代の古希の恋愛をこんなにより生々しく綴った作品ってなかなかないと思う。

松井さんの実体験で"こんなことがあったのかな!?”って重ねてしまうぐらいすごくリアルで、私も70歳になっても"こんな恋愛をしていたいな”、"こんなことがあったらいいな”って思いながら、読んでしまいました。今、とても売れている本です」

◆大関
Netflix 映画「隔たる世界の2人」
独占配信中

第93回アカデミー賞(2021年)最優秀短編実写映画賞受賞作品。白人警官に殺され続けるタイムループにはまった黒人男性の戦いを通し、人種差別問題を真正面から描いたSFドラマ。

中瀬親方のコメント「美しい女性と一夜をともにした部屋で目覚めたグラフィックデザイナーのカーターは、愛犬の世話をするために自宅に帰る途中でトラブルに遭い、警官のメルクに所持品検査を強要されるんです。抵抗していたら、地面に押さえつけられて窒息死に追いやられてしまい、(意識を失うと)目が覚めて"夢だったのか!?”と思い、また自宅に帰ろうとすると、再びメルクに遭遇し、今度は射殺されてしまうんです。

自分がタイムループにはまり込んだことにようやく気づいたカーターは、メルクに殺される運命からあの手この手で抜け出そうとするんですけど、(タイムループが)止まらない。タイムループは映画の題材としてよくあるんですけど、たった30分ぐらいの映画で、しかもラストは"えっ!?”ってなる感じに作ってあって、"まだこの手が残っていたか。上手いな~!”って唸りました。さすがアカデミー賞の受賞作品だと思います。本編は短いので、すぐに観られますから、ぜひご覧になってください」

◆横綱
小説「神よ憐れみたまえ」
小池真理子 著(新潮社)

1963(昭和38)年11月、三井三池炭鉱の爆発事故が起きた同日に、国鉄事故も発生。「魔の土曜日」と言われたその夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺されてしまう。百々子は何不自由のない家庭に生まれ育ち、ピアニストを目指していた。そんな彼女の身に両親の惨殺事件は重く立ちはだかり、人生は変わってしまう。百々子を待ち構えていた暗く歪んだ悪夢とは……。

中瀬親方のコメント「12歳の百々子が62歳になるまでの50年間を描いているんですけど、本当にすごく引き込まれます! 百々子はとても美しくて発達も良くて肉体もたわわに実っている女性で、自分に何の落ち度もないんですけど、男たちが勝手に彼女にいやらしい目を向けてきて。そういった生と性というか、いろいろな死の陰が彼女を翻弄してしまうんです。

結局、ピアニストになりたいという夢も挫折してしまうことになるんですけど、"一体、生きるってどういうことなんだろう”っていうのが、過酷な運命に翻弄される百々子の人生を通して、(読み手に)ものすごく伝わってきます。

小池さんの文章は素晴らしくて、何気ないところの1行でもすごくグッとくるんです。タイトルの『神よ憐れみたまえ』というのはバッハのマタイ受難曲のアリアの一節なんですけど、本当に神がいるならば、なぜ彼女にこんな運命を与えたのかと呪うほどに、いろいろなことが起こるんですけど、百々子はそれでも生きるしかなくて生き抜いていくんですが、とにかくラストの終章の語りで、特に最後の1行は涙してしまうことは間違いないと思います。小池さんが10年の歳月をかけて書いた、著者畢生の書き下ろし小説です。素晴らしい作品なので、ぜひお読みください!」

中瀬さんが推す3作品、ぜひチェックしてみてください! 毎月最終木曜日に発表するこのコーナー、次回8月のエンタメ番付は、8月26日(木)にお届けする予定です。お楽しみに。

※この番組の記事一覧を見る

<番組概要>
番組名:5時に夢中!
放送日時:毎週月~金 17:00~17:59 <TOKYO MX1> 「エムキャス」でも同時配信(地上波放送エリアを除く)
メインMC:垣花正
アシスタントMC:大橋未歩(月~木)、ミッツ・マングローブ(金)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/goji/
番組Twitter:@gojimu
番組Facebook:https://www.facebook.com/5jinimuchuu

© TOKYO MX