【新型コロナ】自宅療養者、全国で10万人突破間近に 医療者の訴えは「酸素も薬も足りない」

 厚生労働省は先日開かれた専門者会議(アドバイザリーボード)へ開示した資料の中で、自宅療養者が18日の時点で全国約9万6000人であることを明かした。十分な医療を受けられないコロナ患者が増え続ける中、必死に命を守ろうと、在宅医療の事業者や地域の家庭医が往診で支えているが、彼らの「武器」となるはずの薬や酸素濃縮器も需給がひっ迫し、さらなる苦境が迫りつつある。

現場が見えない政府、すでに酸素濃縮器は市場在庫ゼロ

 厚生労働省が開示した資料によると、18日時点で、全国で自宅療養となっている感染者は9万6709人。東京、神奈川、埼玉で1万人を越えているほか、大阪は9039人、福岡も5181人となり、首都圏だけでなく地域の大都市へと状況悪化の波が波及している。

 そんな中政府は自治体に対し、病状が悪化し酸素吸入が必要になった患者に対応するための「酸素ステーション」の設置を要請、また先日保険適用になった抗体カクテル薬の積極投与を打ち出している。しかし現場の声や市場をみれば、この打ち手は遅きに失したと評価せざるを得ない状況だ。

 まず酸素ステーションの設置については東京都や大阪府などで設置の動きが進んでいるが、すでに酸素濃縮器は需給がひっ迫し大手4社の在庫は尽きており、早期に設置できる目処は事実上立っていない。

在宅医などが訴え「竹槍すら取り上げられてしまうのか」

 また抗体カクテル薬については、政府が積極投与と訴えているものの、厚労省は入院患者にのみ投与を認める姿勢を崩していない。そもそもこの薬は入院に至らない軽症の状態で投与すべき薬とされており、軽症者が入院できない現状では病院においても使う機会がなくなっている。政府の姿勢は完全に自己矛盾を起こしているのだ。このことは菅首相が積極投与を表明した時から各方面より指摘され続けているが、いまだに方針転換がなされていない。

 つまり事実上、現場における有力な打ち手のひとつが政府により封じられている状態だが、現場の医療者は目の前の患者をできる手段で救うよう努力するしかない。なし崩し的に、患者の診療を行う医師たちは、現場判断で一定の効果が認められているステロイド剤を投与したり、強引に「入院」扱いになるような運用をして患者に抗体カクテル薬を点滴するなど、必死に対応している。

 しかしこうした現場の努力すら、今後数日でできなくなる可能性が高まっている。実はお盆前から医療者の中で、酸素濃縮器だけでなく多くの薬剤が欠乏しつつあると訴えられているのだ。

 宇都宮市で独自に自身の診療所の増床を行いコロナ患者の受け入れるなど、積極的に治療へ取り組んでいるインターパーク倉持呼吸器内科院長の倉持仁医師は以前からこの事実を指摘していたほか、先日より東京都医師会などと協力し、首都圏で自宅療養者に往診を行なっている悠翔会の佐々木医師も悲痛な訴えを行なっている。

 心ある医師がなんとか患者を支えようとしても、何も処置できずただ見守るばかりでは、患者にとってむしろ地獄だろう。この現状打破は、単に国民に感染防御を要請し続けるだけでは不可能であり、早急に酸素濃縮器の生産・流通支援体制構築、自宅療養者を診療する医療法人への優先的配置などを政府の責任で行う必要がある。でなければ、今後首都圏だけでなく多くの都市で、自宅で苦しみ抜いて亡くなる患者が増えていくだろう。

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