「冗談で『23秒台』と言ったら、エンジニアは笑っていた」小林可夢偉 決勝直前インタビュー/ル・マン24時間

 2021年WEC世界耐久選手権第4戦/第89回ル・マン24時間レースの決勝スタートを翌日に控えた8月20日、ハイパーカークラスに参戦するトヨタGAZOO Racingはリモート形式の記者会見を開き、フランス・ル・マンから前日のハイパーポールでポールポジションを獲得した小林可夢偉、中嶋一貴、そして村田久武チーム代表が出席、予選を含めた前日までのセッションの総括、決勝に向けた展望などを語った。

 ここでは、7号車GR010ハイブリッドをドライブする可夢偉が語った内容をお届けする。

 冒頭、可夢偉はポールポジション獲得ラップの“裏側”を振り返った。

 ハイパーポールでは、2セットのタイヤでアタックを計画。可夢偉がマークした3分23秒900というタイムは、1セット目のタイヤにおける計測1周目のものだ。最速ラップのオンボード映像を見れば分かるが、1台もトラフィックが出現しない完全なるクリアラップだった。

「1周目なので、コンサバティブにいきました。2セット目のタイヤもあるので、まずは確実にタイムを出すという走り方です」と可夢偉。

「2周連続でアタックしたかったけど赤旗になってしまい、残念ながら1セット目のタイヤは終わってしまいました」

 再開後、2セット目の計測1周目は3分23秒923と惜しくもタイム更新ならず。可夢偉は続けて2周目のアタックへと入る。

 しかしこのラップのターン7でトラックリミットを超えてしまい、タイムを残しても削除されること、そして3周目のアタックに臨む燃料を搭載していないことから、アタックを中断しピットへと戻った。計時データ上では、このラップのセクター1、そしてセクター2では、自身のベストラップ(1セット目の1周目)を上回っていた。

「ミスなく2周目のアタックを決められれば良かったんですけど、ちょっと行き過ぎたかなというのが本音」と可夢偉は振り返る。

「(ベストラップの周は)コンサバに行き過ぎた。もっといけたと思います。でも、それを言い出したらキリがない。タラレバですが、あとコンマ5〜6秒はいけたと思います」

「ただ、ああやって(トラフィックの少ない)1周目にタイムが出せるというのはだいぶアドバンテージがあるので、一発で決められたのは良かったです」

「まずはポールが取れたということで、チームがいいクルマを作ってくれて、いい流れでここまで来れたかなと思います」

 3分23秒台というタイムは可夢偉自身、そしてチームにとっても驚くべき速さだったという。

「(走行前に)『何秒出せるんだ?』って聞かれて、僕がちょっと冗談で『23秒台』と言ったら、エンジニアは『そんなの無理だよ』みたいに笑ってたんです。ウエイト(ガソリン搭載量)の計算でいっても、あそこまではタイムは上がらないはずだった」

 また、本来ならル・マンでのアタック1周で終わるが、今年は21時というセッション開始時刻もあって気温・路温が低く、「意外にも2周目もアタックができたのは、今までとは違う傾向」だと可夢偉は語っている。

■「手応えは毎年ある。それは参考にならない」

 可夢偉はその後、FP4のナイトセッションにおいて、テルトル・ルージュ手前でスピンを喫する場面も見られた。

 可夢偉によれば、ハイパーポールからFP4までのインターバルが短く、「セレモニーが終わって僕とクルマがガレージに戻ってきた頃にはもうセッションが始まっていて、『そのまま行って!』という状態」」だったという。マシンからデータを抜き取ることもできず、これがFP4全体のパフォーマンスに影響していた可能性もある。

 可夢偉がスピンしたのはセッション終盤で、「2〜3スティントくらい行ったタイヤで走っていました」という。

「FP4ではクルマのフィーリングがあまり良くなく、トラコンとかの設定をいろいろいじっているときにはみ出してしまった。でも、クルマが壊れなくて良かったなと思っています」

 ベストポジションからのスタートになるとはいえ、レースは長い。これまでのル・マンでも厳しい経験を積み重ねてきている可夢偉は、決勝に向けた手応えを問われると「毎年、手応えはあるので、あまりそれは参考にならないと思います」と締まった表情を見せた。

「一番速いクルマを手にしているという部分では、純粋にポジティブなイメージでレースに臨めますが、必ずしもそれが結果に残るわけではないので、予選は予選、という風に考えています。ですので、しっかりリセットして、24時間に挑みたいという気持ちです」

  第89回ル・マン24時間レースは、現地時間21日16時(日本時間23時)に決勝のスタートが切られる。

PP獲得から一夜明け、パドックでメディア対応する小林可夢偉

© 株式会社三栄