2年ぶり現地開催 輝いた長崎県勢 第45回全国高校総合文化祭「紀の国わかやま総文2021」

日本音楽部門で長崎県勢初の全国入賞を成し遂げた佐世保南高邦楽部=和歌山県(同校提供)

  第45回全国高校総合文化祭「紀の国わかやま総文2021」が7月31日~8月6日、和歌山県で開かれた。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でウェブ上で実施され、現地開催は2年ぶり。合唱、書道などの18部門と開会行事に参加した長崎県の約240人が和歌山を訪れた。上位入賞を果たした主な県勢の活躍と生徒の思いを紹介する。

 日本音楽】初の入賞「チーム力」で壁破る 佐世保南高

 箏や尺八などの和楽器による演奏をコンクール形式で披露する日本音楽部門。12人で出場した県立佐世保南高邦楽部が、全体で2~4位の学校に贈られる文化庁長官賞に輝き、県勢初の全国入賞を成し遂げた。
 8月1日夕方。前日に演奏を終え、列車で帰途に就いていた部員たちの元に1本の電話が入った。文化庁長官賞受賞の知らせ。「驚いてみんな表情が固まって、時間が止まったようだった」。3年の合田結子部長(17)が笑って振り返る。
 同部門の県勢は2009年から毎年出場してきたが、入賞のハードルは高かった。他の代表校の多くが中高一貫校なのに対し、同部は高校から本格的に箏に触れる生徒がほとんど。「爪のはめ方も知らなかった子たち。一人一人のレベルではかなわない」と、同部を長年指導する邦楽家の山本孝子さん(76)。
 加えて、本番で同部が演奏した「箏のための展」は、奏者にアドリブや高度な表現力が求められる難曲だった。そこで徹底的に磨いたのがチーム力。「人数が多くはない部。1人がずれたらお客さんに分かってしまう」(合田さん)と、一つ一つのフレーズをひたすら弾き込んできた。どんなテンポでも、全員の音がぴったりとそろうまで練り上げて本番に臨んだ。
 他校の演奏で全国のレベルの高さに圧倒されたという合田さん。それでも「最後の音を弾いた時に楽しかったと思いたい」と舞台に上がった。舞台袖で聞いた山本さんには手応えがあった。「いつものように曲がうまく流れていた。演奏後は『いけるかも』と感じた」
 同部が長年目標にしてきた全国入賞。今でも実感はないが、合田さんは「受賞は全員で気持ちを一つに合わせられたから。誰か1人が欠けていたらこの演奏も賞もなかった」と思う。入賞校は例年、国立劇場(東京)で公演に出演。今年はコロナ禍のため撮影のみだが、近く上京する予定だ。

 【放送(オーディオピクチャー)】全国に届いた平和の「声」 長崎西高

 郷土の話題などを音声と写真で紹介した作品を審査する放送部門の「オーディオピクチャー部門」。県立長崎西高放送部のチームが、長崎市の被爆者で歌人の前川明人さん、多美江さん夫妻の半生と、短歌への思いをまとめた作品「いのちの短歌(うた)」で最高賞の優秀賞(全4作品)に輝いた。

「いのちの短歌」で優秀賞に輝いた長崎西高放送部のチーム=長崎市竹の久保町の同校

 長崎原爆で生徒ら約400人が犠牲になった旧制県立瓊浦中の跡地にある同校。放送部は代々、被爆校として原爆に関する作品の朗読や番組作りに積極的に取り組んできた。
 被爆者の高齢化や新型コロナ禍で、取材相手を見つけることさえ難しかった昨年夏。草野みずきさん(18)、安部澪(れい)さん(18)、一安皓希さん(17)、造酒(みき)ちひろさん(16)のチームは、本紙の連載「長崎原爆と創作」で前川さん夫妻を知った。
 「急降下してきし一機の吾を撃つ眼がそこにありまだ捉われて」。12歳だった多美江さんが米軍機の機銃掃射で狙われた瞬間など、自分たちが知らない当時の現実を詠った短歌に、衝撃を受けた。「作品に込められた思いを長崎だけにとどめず、全国の同世代に伝えたい」と制作を始めた。
 「いのちの短歌」では、飽の浦町の自宅で被爆した多美江さんと、長崎本博多郵便局(現・万才町)で勤務中に被爆した明人さんを紹介。原爆の犠牲者や、生後わずかで亡くなったわが子に思いを巡らせながら言葉を紡いできた半生を、2人の肉声を交えながら約5分の作品にまとめた。
 被爆当時の夫妻とチームのメンバーは同世代。だが、今と懸け離れた当時の暮らしを想像することに苦労した。それでも、多美江さんは「次はあなたたちが伝える番」と励ましてくれた。「ただ情報を発信するのではなく、魂がこもった言葉を届けたい」。何度も2人の元に通い、編集作業に取り組んだ。

 わかやま総文では、審査員や参加した高校生から「命の重みが伝わって感動した」などの感想が寄せられた。草野さんは「2人の声を形にできたことがうれしい。今後も多くの人と平和の思いを共有したい」と笑顔。一安さんは「放送部だからこそ聞けた貴重な話。被爆者の思いを伝えるために活動を続けたい」と話した。

 その他】弁論、自然科学は大村高

 わかやま総文ではほかにも多数の部門で県勢が成果を残した。
 弁論部門では県立大村高2年の永尾真臣さん(演題・言葉と生きる)が優良賞(8人)。小学校入学後に独りぼっちだった永尾さんに声を掛けてくれた年上の友人を突然亡くした経験から、命の重みを痛感したことや、相手を傷つけるのではなく「生きていて良かった」と思ってもらえるために言葉を使っていく決意を語った。
 自然科学部門では、県立大村高3年の本村かんなさんが物理の研究発表で最優秀に輝いたほか、県立長崎北陽台高が「マツバクラゲの群体性ポリプの発見とその生活環について」と題したポスター発表で、文化庁長官賞を受賞した。

ポスター発表を行う長崎北陽台高の生徒=和歌山県内(同校提供)

 県立佐世保東翔高はマーチングバンド・バトントワリング部門で講評者特別賞、パレード部門でグッドパレード賞をそれぞれ受賞。新聞部門では県立長崎南高が優秀賞となった。
 西海学園高3年の山本美来さんは書道部門で特別賞。県立長崎西高3年の草野みずきさんは、放送部門の朗読で最高賞の優秀賞を受賞した。


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