携帯電話の料金、まだ下がるの? 「官製値下げ」、次の狙いは…

記者会見で新たな携帯電話料金プランを発表するNTTドコモの井伊基之社長=2020年12月、東京都渋谷区

 「月々の携帯電話料金が乗り換えで下がった」―。最近、周囲でこうした声が聞かれるのは、大手携帯電話会社が次々と新料金プランを始めたことが大きい。菅政権は携帯料金の一層の引き下げに意欲を示している。次の狙いは高止まりする音声通話料金と、他社への乗り換えの障害となる契約慣行だ。家計負担の軽減に直結する値下げは、低迷する内閣支持率を浮揚させる数少ない材料となる。民間介入への懸念をよそに「官製値下げ」は今後も続く見通しだ。(共同通信=真野純樹)

 ▽国民負担軽減4300億円

 「携帯料金の値下げで家計負担が減っている」。7月中旬、菅義偉首相が共同通信社のインタビューで政権運営の成果として誇ったのが携帯値下げだった。

共同通信社の単独インタビューに応じる菅首相=7月

 値下げ圧力は、官房長官時代の2018年に「日本の携帯料金は4割程度下げる余地がある」と発言したのが始まり。昨年秋の首相就任後も看板政策に掲げると、担当閣僚に就任した武田良太総務相が各社の料金プランに次々と口を出した。

 たまらずNTTドコモは「ahamo(アハモ)」、KDDI(au)は「povo(ポヴォ)」、ソフトバンクは「LINEMO(ラインモ)」と名付けた割安プランを今年3月に始める。これらの契約数は5月末時点で利用者全体の1割程度に。一定の成果を上げた武田氏は「国民の負担軽減効果は年間4300億円」と胸を張った。

 ▽10年以上横並び

 総務省では途中、値下げ実務を仕切った谷脇康彦(たにわき・やすひこ)総務審議官(当時)らがNTTなどから会食接待を受けた問題で更迭される混乱もあった。

 しかし、その後も値下げ圧力は緩んでいない。総務省幹部は「携帯大手はまだ稼ぎすぎだ。解決すべき課題は残っている」と語る。

携帯電話大手ソフトバンクの「LINEMO(ラインモ)」の申し込み画面

 これまでの値下げは、スマートフォンで動画や会員制交流サイト(SNS)を視聴する際のデータ通信量が主な対象となってきた。

 今後の論点の一つが通話料金だ。使った分だけ支払う従量制の料金は大手3社が横並びの30秒20円で、10年以上変わらない。大手は「定額制のプランも提供し、実質的に値下げしてきた」と主張するが、総務省は格安スマートフォン事業者に音声回線を貸し出す際の料金と合わせ、高止まりしているとして問題視する。

 かつては当たり前だった、契約の拘束期間が2年を超え、解約時の違約金が1万円近い利用者に不利な契約が依然として多いことも課題だ。19年10月の法改正で、それ以降の契約は最長2年、違約金の上限が千円に改められた。旧ルール下の契約が今年3月末時点で半分残り、乗り換えが広がらない一因となっている。

 ▽「優等生」であれ

 総務省は7月にまとめた競争ルールの報告書案で「国民共有の財産である電波の割り当てを受けている携帯大手は『優等生』として振る舞うことが求められる」と指摘し、「公共の福祉」に資する事業活動を要求した。低価格のサービス提供に常に努力しろと、各社が受け取れるような書きぶりだった。

オンラインで新料金を発表するKDDIの高橋誠社長=1月

 だが市場原理にのっとれば、民間事業者は提供するサービスの価格について、利益を考慮しながら自ら決められるはずだ。「官製値下げ」は、民間の経済活動をゆがめる危うさをはらむ。政府が産業界に賃上げを促す「官製春闘」や、日銀が株を買い支える「官製相場」が批判されるのと同様だ。

 通信政策に詳しい中央大の実積寿也(じつづみ・としや)教授は、各社が打ち出した割安プランで利用者の選択肢が増えたことを評価しつつ「政府が携帯電話会社を経営しているわけでもなく、料金水準を示すのはやり過ぎだ」とし、政府に慎重な対応を求めた。

© 一般社団法人共同通信社