最終ラップでの逆転、劇的勝利のWRTフラインス「僕らのレースは終わったと思った」/ル・マン24時間

 8月21~22日にかけてフランス、ル・マンのサルト・サーキットで行われたWEC世界耐久選手権第4戦/第89回ル・マン24時間レースのLMP2クラスウイナーとなった、チームWRTのロビン・フラインスは、31号車オレカ07・ギブソンのエアジャッキの故障とGTEマシンとの接触によって「自分たちのレースは終わったと思った」と語った。

 フラインス、フェルディナンド・ハプスブルグ、シャルル・ミレッシの3人は、LMP2クラスのトップを走っていた彼らのオレカ07がレース終盤に何度もドラマに遭遇したにもかかわらず、ロバート・クビサ、ルイ・デレトラズ、イフェイ・イェによって運転された姉妹車41号車オレカ07がファイナルラップでストップするという悲劇的な展開によって、最終的には優勝を勝ち取った。

 イェがドライブする41号車が最終ラップで止まった時、2番手を走っていたフラインスは僚友を逆転するとともに、後方2秒差に迫っていたトム・ブロンクビスト駆るJOTAの28号車オレカ07とのスリリングな優勝争いを繰り広げることとなった。2台の争いはチェッカーフラッグを受けるその瞬間まで続き、最後は0.7秒差での決着となった。

■エアジャッキの故障で通常のタイヤ交換が不可能に

 チームWRTの31号車オレカは、チームメイトよりも優位に立った状態で日曜の午後を迎えたが、不幸なことにタイヤ交換時に使用する車載エアジャッキが故障してしまう。

 このためベルギーのチームは、タイヤ交換を行うために空気式の“エマージェンシー・リフト”という装置を使うことにしたが、時間のロスを最小限に抑えるために通常、前後4本を換えるところを各ストップでフロントとリヤの2本のみ交換していく戦略を採った。

 この緊急措置が始まったとき、フラインスはフロントに新品のグッドイヤータイヤを装着したものの、リヤは4スティント目に入る古いタイヤを使用してたためバランスが崩れたという。

「エアジャッキが壊れたせいで僕たちはすでにピットで1分を失っていた。だから、リヤタイヤを交換することができなかった」とフラインスはSportscar365に語った。

「新品のタイヤをフロントに入れたことで(グリップは)完全にノーズ側に寄っていた。その状態で7~8周走ったあと、リヤタイヤを交換するためにピットに戻ったんた」

「その後さらに状況が悪化し、エアジャッキなしでリヤタイヤを交換することになったため、さらに20~25秒を失うことになった」

レース後半に車載ジャッキが故障した31号車オレカ07・ギブソン

■GTカーとの接触でハンドリングが悪化

 ドラマはさらに続く。フラインスはテルトル・ルージュの進入でLMGTEアマクラスのポルシェ911 RSR-19と接触。このコンタクトはオレカ07の左リヤにダメージを与え、ハンドリングの問題を引き起こすことになる。

「タイヤの構造が壊れたとすぐに感じた」とフラインスは説明した。

「右コーナーで荷重を掛けられない状態になった。それから僕は大幅にスライドしてしまった。ダウンフォースを失ったように感じ、ペースが一気に落ちてしまったんだ」

「左リヤタイヤが壊れたまま1スティントを走りきった。それはやはり構造の破損だったよ。DTMドイツ・ツーリングカー選手権で使っていたハンコックタイヤのサイドウォールでこのような経験をしていたので、その感覚は知っていた」

「おかげで僕はパンクではないと分かったんだ。だから時間をロスすることなく1回のスティントを走りきった」

「リヤタイヤを交換した後、今度はフロントが古くなっていた。クルマはブタのようにアンダーステアになるだろうと思っていたが、わずか2周でまたリヤがなくなった。それはタイヤのせいではなく(カウルの損傷で失った)ダウンフォースの影響だ」

「右コーナーはすべてダウンフォースがなく、左コーナーでもトリッキーになっていた。リヤディフューザーか何かが壊れたのかもしれない」

■トップ走行の姉妹車41号車がファイナルラップでストップ

 31号車オレカは明らかに苦戦しており、フラインスは夜の間に圧倒的な強さをみせていた彼と彼のコドライバーたちの勝利のチャンスが無駄になると考えていた。

「その時点では、僕たちのレースは終わったと思った」と彼は振りかえる。

「クルマの中では必死だったけど、落ち込んでもいた。後ろのブロンクビストは僕たちのペースよりも遥かに速かったしね」

 しかし、そのフラインスにチャンスが訪れる。WRTがまだ完全には診断できていない“技術的な問題”によって、ファイナルラップで41号車オレカがダンロップ・ブリッジを過ぎたところでストップ。31号車が土壇場でクラストップとなったのだ

「最後のラップを開始するためにフィニッシュラインを通過したとき、ラジオの向こうで『シスターカーが止まった!』と大騒ぎしていたんだ」とフラインス。

「僕は2位を確保する走りをしていたが、突然トップを守らなくてはいけなくなったんだ」

クラストップで最終ラップに入ったところで、マシンが止まってしまったチームWRTの41号車オレカ

■危険なフィニッシュになるのが「予見できた」

 土壇場でクラストップに立ったフラインスは、残り3周の時点で2台のトヨタGR010ハイブリッドが同時にピットを出るのを確認していたため、LMP2クラスのレースがどのように終了するかを予測できたという。

 約2秒差でファイナルラップを迎えた31号車オレカと28号車オレカ。オランダ人ドライバーを追いかけるブロンクビストはこの1周で問題を抱えた31号車の背後に迫り、ポルシェカーブを超えた先で彼のテールについた。その後、トヨタ勢を先頭にしたトラフィックに巻き込まれた2台のバトルはワイルドなエンディングを迎えた。

「僕は最後に何が起きるのかを正確に理解できていた。彼らはフォトフィニッシュを狙っていたんだ」

「彼らがオーバーテイクしたドライバーたちは余分なラップをしたくなかったので(トヨタGR010ハイブリッドがスローダウンしても)ふたたび追い抜くことはしない。その集団のなかに入ることが予見できた」

「僕は彼らの3、4秒ほど後ろにいて、ペースを維持するのに必死だったし、コンマ1秒でも多く稼ごうと必死だった」

「最後のセクターに入った時、ブロンクビストはすでに1.2秒差に迫っていて、前方にはスローダウンしているクルマの列が見えた。こんなときはどうすればいい?」

「最終シケインを抜けた先でP2カーが減速したので、僕は右にマシンを振ったが、同じように右に避けたGTカーと軽く接触した。彼はそれを予測してなかったので責めることはできない」

「直後、リヤが少し滑った。次に目の前に見えたのはチェッカーフラッグマンだったので、避けるためにふたたび左に曲がったんだ」

 フラインスはチェッカーフラッグを振るコース上の係員を辛うじて避けた。彼は後に、フィニッシュするクルマの後ろでまだ争っているマシンがいる場合、レースの終了手順を変更すべきだと提案した。

「チェッカーフラッグマンがフィニッシュラインに立つことは全面的に支持する。これは伝統的なものだし、写真映えもするからね」とフラインス。

「だから来年から禁止すべきだとは言わない。しかし、誰かが後ろで優勝や表彰台を争っている場合は、スピードを上げるか、道を譲るかなどを考慮する必要がある」

「後ろで戦っている人がいるときは時速80キロでフィニッシュラインをくぐらないでほしいね」

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