コロナ禍の避難生活、「差別」懸念 

感染制御の専門家集団「DICT」とは

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 今月中旬に西日本から東日本の広い範囲で降り続いた大雨により、河川の氾濫などで少なくとも数千軒の住宅が被害を受け、多くの地域で住民が避難所に身を寄せた。折しも、新型コロナウイルスが過去最悪のペースで全国に拡大しており、集団生活には感染リスクがつきまとう。災害とコロナの二重苦にどう向き合えば良いのか。日本環境感染学会で災害時の支援チームを率いる長崎大病院の泉川公一教授に現場と制度の課題を聞いた。(共同通信=山本大樹)

大雨の影響で冠水した道路を歩く人たち。手前は自衛隊員=8月15日午前、佐賀県武雄市

 ▽ストレス多い生活、高まるリスク

 ―新型コロナが急速に広まっています。避難所での集団生活では、感染が広がりやすくなるのでしょうか。

 消毒用のアルコールなどは配置されると思いますが、一つ一つの作業を誰がやるのかといったことが決まらず、環境整備が間に合わないこともあるでしょう。食事の調理や配膳などで行き届かない点があると食中毒も起きやすい。すごいストレスを抱えながらの生活で、免疫力が下がる人も出てくる。こうした複数の要因が重なって、感染症にもかかりやすくなっていくことが考えられます。実際に過去の災害では、避難所でインフルエンザやノロウイルスの集団感染も起きています。

 ―特に感染拡大が懸念される場面は。

 コロナは飛沫(ひまつ)と接触でうつります。飛沫はマスクなどである程度抑えられますが、食事をする際などマスクを外す場面では、感染リスクに十分気をつけなければなりません。手についたウイルスから感染してしまうこともありますので、手洗いをより一層徹底する必要があります。食べ物一つにしても、誰がつくって誰が配るのかをよく考えなければいけない。家にいる時はそこまで神経質に気をつけることはありませんから、強いストレスを感じると思います。しかも、ソーシャルディスタンスもとりにくい。対策を徹底するのが非常に難しい状況になります。

大雨被害を受けて開設された福岡県久留米市の避難所=8月14日午後

 ▽感染による疑心暗鬼、差別の懸念

 ―一人一人の被災者が集団生活で気を付けるべきことはありますか。

 **3密を避けるとか、手を洗う、換気をするといった基本的な内容は通常と変わりません。普段やっている感染対策をしっかり継続することが重要です。 **

 一方で、非常に心配なのは差別です。せき払いをしただけで「コロナじゃないの?」と疑われるかもしれません。実際に感染者が出ても、病床が空いていないから、すぐには移動できないというケースも想定されます。だんだんと互いに疑心暗鬼になって、ギスギスした隣人関係から差別を生んでしまうのではないかと懸念しています。精神的に負担のかかる環境ですが、冷静になって行動してほしいと思います。

 ―高齢者を中心にワクチンを接種した人も増えています。避難所での感染リスクに影響はありますか。

 高齢者のワクチン接種は、入院や重症化の抑制という面で高い効果が期待できます。避難所において、高齢者をコロナから守るという意味では、非常に期待が持てると思います。一方で、ワクチンが十分に行き届いてない若い世代においては、避難所での伝播(でんぱ)が起こり得るので、接種がより一層進むことを願います。

DICTのメンバーの一部は、新型コロナの集団感染が起きたクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』でも一時対応に当たった=昨年2月

 ▽災害時の感染制御専門家集団

 ―学会としては避難所の感染拡大防止にどのように取り組んでいるのですか。

 避難所で衛生管理の実務を担うのは、ほとんどの場合、保健所の保健師さんです。「トイレはこうやって掃除しましょう」「食事の時はこういうことに注意してください」「換気はこうしてください」というようなことを細かく指導していくわけですが、大きな災害では保健師さん自身も被災者になってしまう。そうすると、保健所に期待されていた衛生管理の機能がストップしてしまいます。

 こうした事態に対処するため、学会には感染制御の専門知識を持った医師や看護師、薬剤師らで構成する災害時感染制御支援チーム(DICT)があります。災害時には現地にメンバーを派遣し、平常時に戻るまで保健行政をサポートする仕組みです。

 ―具体的な活動内容は。

 基本的には保健師さんの代わりに衛生管理が行き届いているかをチェックし、対策を指導するのが役割です。その際は、医療機関が院内感染防止のために取り組んでいるような手法が参考になります。避難所というのは、家庭の代わりになる場所ですから、必ずしも病院と同等の対策を実施する必要はありません。

 ただ、インフルエンザなどと違って、コロナにはまだ特効薬と呼べるような薬はないし、重症化すると亡くなる可能性もある。避難所の感染対策としてはハードルが高い。だから医療機関で実施するようなノウハウが役に立つわけです。

長崎大病院の泉川公一教授

 ▽身分保障や保険もなく…

 ―これまで実施してきたコロナ対策に加え、避難所での衛生対策も重なると、保健行政が平常時に戻るまでにはかなり時間がかかるのでは。

 間違いなく時間がかかります。保健所は長引くコロナ対応で既に疲弊してしまっています。さらに災害が起きて避難所開設となると、大きな混乱が生じる。そこで非常に重要になるのがシミュレーションです。各都道府県や市町村が、どれだけ備えていたかが問われると思います。

 ―DICTの活動期間も長期化することが想定されますが、学会としてはどのような体制をとっているのでしょうか。

 残念ながら、体制は盤石ではありません。DICTはよく災害派遣医療チーム(DMAT)と比較されますが、DMATは厚生労働省や都道府県が主体となって発足させたもので、災害派遣の際も身分保障や傷害保険などの制度がきっちりしている。

 一方、DICTは今のところ、学会内のボランティアで成り立っている組織です。被災地に駆け付けるときも、メンバーそれぞれが勤務先の所属長に許可をもらった上で、保険もきかない状態で活動します。やはりDMATと同じくらい認知され、国の補助を受けられるように体制を整備しなければならないと思っています。同時に、DMATの人たちにも感染制御のノウハウを学んでもらい、現地で一緒になって取り組んでいくことも重要だと考えています。