【高校野球】4点差をスクイズから大逆転 近江が大阪桐蔭に逆転勝利できたポイントは?

スクイズを決めた近江・西山嵐大【写真:共同通信社】

注目の近畿勢対決、大阪桐蔭は追加点奪えず敗戦

見応えのある接戦だった。第103回全国高等学校野球選手権10日目が23日、阪神甲子園球場で行われ、近江(滋賀)が4点差をはねのけ、大阪桐蔭に6-4で逆転勝利。近江・多賀章仁監督は試合後「信じられない。悪い流れからよく持ち直してくれた」と選手たちを称えた。ビハインドの展開で慌てない。指揮官の冷静な判断、気付きが白星に導いたように映った。

近江は初回にいきなり3点を失った。先発のマウンドに上がった山田陽翔外野手(2年)が大阪桐蔭の強力打線につかまった。2回にも1失点し、4点を追う展開となった。

だが、冷静に相手を見ると、大阪桐蔭の先発・竹中勇登投手(3年)もリードをもらいながらも、制球が安定してなかった。相手も同じ高校生だ。多賀監督は「こっちも1点を取ることができたら、先制パンチをくらって動揺している選手たちは落ち着くかな」と分析。勝負どころは終盤にやってくるとにらみ、3回1死一、三塁の得点機で確実に1点を取りにいった。2番・西山嵐大外野手(3年)に出したサインはスクイズ。それをしっかりと選手が決めた。

まず1点。だが、この1点が大きな意味をもたらした。多賀監督は選手たちがしっかりと地に足を着き始めたことを実感。守備からベンチに戻ってくる選手たちに対して、短く、そして的確な言葉で鼓舞し続けた。「今日はくらいついていこう。相手は横綱なんだから」、と。

次第に先発・山田からは力みが消えていった。最初は真ん中にボールが集まっていたが、大胆かつ丁寧な投球に変化し、大阪桐蔭打線を封じていった。守りから攻撃に転じる近江の野球が機能し始めた。そして、4回に5番・新野翔大内野手(3年)が右越え本塁打。5回には4番の山田の左犠飛で1点差に。7回2死一、二塁からは、新野に右前へ同点の適時打が飛び出し、試合を振り出しに戻した。

継投も勝負のポイント、大阪桐蔭はエース・松浦の登板はなく

試合を決めたのは途中出場の山口蓮太朗内野手(3年)だった。「終了のサイレンが鳴るまでは絶対に諦めない、とベンチで話していました。打った瞬間、信じられなかったです」と8回2死満塁から右翼へ値千金の勝ち越しの2点二塁打。滋賀大会ではスタメンもこの日は2年生の津田基内野手が先発。多賀監督は山口を5回に代打に使っていたが「3年生の力を信じ、思い切って、代打を送りました。あの場面で代打を送れたことが、8回の攻撃につながったのかなと思います」と起用が実った舞台裏を明かした。

この試合、継投も注目だった。ともに先発のマウンドにはエースナンバーの姿がなかった。どこで投手交代がされるかも、ポイントのひとつだった。

近江は7回から背番号1の岩佐直哉投手(3年)を送りだした。指揮官は「山田と岩佐の攻めの投球が大きな勝因」と語ったように3回以降を2人でピシャリと無失点。交代のタイミングも投手たちとしっかりとコミュニケーションをとった。大阪桐蔭はエースの松浦慶斗投手(3年)の登板はなかった。両校ともに思惑はあっただろう。大阪桐蔭・西谷浩一監督は「うまく導いてやれなかったのが残念です」と3回以降、追加点を奪えなかったこと、思い通りに試合を運べなかったことを悔やんでいた。

近江は春の滋賀大会で3回戦で敗れ、多賀監督は選手たちへ厳しい言葉で叱咤してきた。この試合で選手たちは2回まで浮き足立っていたが、声かけや気付きで平常心を取り戻させた。堂々とプレーをした選手たちのパフォーマンスも素晴らしかったが、勝負どころを見極めた指揮官の采配も見事だった。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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