“史上初”女子の甲子園で感じた希望 球場から伝わった選手たちのメッセージ

甲子園で初の女子決勝を制して喜ぶ神戸弘陵ナイン【写真:共同通信社】

NPB球団のバックアップ、甲子園開催…女子野球を盛り上げていくために必要なこと

甲子園球場に新しい風が吹き抜けた。第25回全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が23日、史上初めて甲子園で開催された。神戸弘陵(兵庫)が高知中央(高知)を4-0で下し、5年ぶり2度目の優勝を飾ったこの歴史的一戦は、女子野球界の未来を照らす大きなものとなった。

手を繋いだ。円になった。試合前、優勝した神戸弘陵ナインはスタンドの控えメンバーとともに歌った。メロディーはBEGINの「島人ぬ宝」。歌詞は少し替えてあった。

「僕が夢見た~、この甲子園~」

ひとつになった歌声は夕暮れの甲子園の空に広がった。主将の小林芽生選手(3年)は「自分たちがこのような場所で試合ができるとは思っていなかった。本当にうれしいです」と喜び、優勝投手となった副主将の島野愛友利投手(3年)は「ずっと甲子園が女子たちの目指す場所であってほしい」と正直な思いを口にした。信じた夢は現実になった。

少女たちは野球を続けていると、いろんな壁にぶつかる。その壁を乗り越えることができず、野球を辞めてしまう子だっている。

小学校までは男子に負けずに対等に“戦える”。男子よりもうまい選手もいる。中学生になっても野球を続けたいと、大淀ボーイズ(大阪)で全国制覇をした島野投手のように男子と一緒に白球を追いかける子もいれば、体力差などについていけないケースも多くある。女子だけで結成された中学チームはそう多くはない。野球を続けていくモチベーションが見つけづらいのが女子野球の現状だ。

第1回大会は5チームだった、変わっていく女子野球界

今回で25回目を迎えた全国高校女子硬式野球選手権大会。参加40チームと今でこそチーム数は全国的に増えたが、第1回はたった5チームの出場のみだった。この甲子園開催でチームがさらに増える可能性はある。優勝した神戸弘陵・石原康司監督も「野球人口の底辺拡大。(女子硬式野球部がある)高校が増え『甲子園でやりたい』となれば、盛り上がってくると思う。そう信じています」とこの歴史的な一戦が持つ意味を会見で伝えた。甲子園で毎年のように開催するのは難しいかもしれない。だが、少女たちが夢を持つことができる環境づくりを、今回のように野球に携わる人たちの手で作っていってほしいと願う。

西武や阪神など、近年はNPB球団がバックアップするチームも出てきたとあり、女子野球の見え方は変わってきている。さらに踏み込んで、NPB球団が女子選手たちの雇用や給料を持つ仕組みになっていくことができれば、プレーヤーにとっての夢はもっと広がっていく。

小学生の野球チームで、女の子がプレーしているのは当たり前の時代となった。間違いなく女子野球の人口は増えている。島野投手は小さい頃から「女の子が野球やっているの?」と言われる現状を打破したいと切に願っていたという。その右腕で時代を変えることができたのではないだろうか。

女子野球のスケールがさらに大きくなるために、夢を夢で終わらせぬよう、この歴史的一戦から、未来が大きく動き出すことを期待したい。彼女たちのメッセージは甲子園から次の世代へ発信された。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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