環境対応で注目の「サーミスタ」って何?幅広い用途で需要拡大、市場動向を解説

サーミスタという部品を知っていますか?サーミスタは、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体(半導体)で、温度を測定するセンサとして利用されています。

なかでもNTCサーミスタは、温度の上昇に対して抵抗が減少するサーミスタで、安価で大量生産が可能であることから、温度センサとして自動車、空調機器、家電、産業機器など幅広い分野で使われています。


日本メーカーのシェアが高いサーミスタ

NTCサーミスタの製造工程は、素子生産とセンサ組み立てに分けられます。素子は、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄などを基本素材とした酸化物を高温で焼結し、チップにカットしてリード線をつけて製造されます。さらに素子は各用途に合わせる形でセンサに組み立てられます。

素子生産に関しては、混合、乾燥、焼結、組立、選別など材料投入から製品完成までの生産リードタイムが長く(約3 カ月)、各工程での生産ノウハウの積み重ねが必要であることから参入障壁が高いと考えられます。

NTC サーミスタの世界市場は年間1,500 億円程度と推測されます。芝浦電子(6957)が17%程度のシェアを握りトップ。これにAmphenol(米国のコネクタメーカー)、TDK-EPC(EPCOS、TDK(6762)の100%子会社)、SEMITEC(6626)、大泉製作所(6618)、立山科学工業(非上場)、Vishay Intertechnology(米国の受動部品メーカー)、三菱マテリアル(5711)などが続いていると見られます。

多くのメーカーが参入していますが、NTC サーミスタの市場規模が限られること、信頼性を求められる幅広い用途があることなどから価格競争が比較的起きにくいことが特徴です。

EV向け需要の拡大が見込まれている

今後のサーミスタ需要の牽引役として注目されるのは電気自動車(EV)などの電動車であり、それらに搭載される蓄電池やモーターなどの温度測定用です。

自動車向けについては、カーエアコン向けや駆動系での水温、油温、燃料温、吸気温、排気温の検知・制御のために従来から自動車1 台当り10~15 本程度のサーミスタが搭載されています。今後はEV など電動車の普及により、自動車向けサーミスタ需要はさらに増えると考えられます。

大泉製作所の試算によれば、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)では1 台当たり15~30 本、EV や燃料電池車(FCV)では同20~25 本と増加し、自動車用サーミスタ需要数は2019 年の10 億本弱から2030年(電動車比率46%が前提)には17 億本程度への拡大が見込まれています。

エアコン(空調機器)を含む家電・住設機器向けについても有望だと考えます。エアコンのインバータ化のさらなる進展に加えて、家庭用コーヒーメーカー、IH 調理器、エコ給湯システム、温水洗浄便座などサーミスタを数多く使う製品が世界的に普及しており、今後の需要拡大につながると考えられます。

年率5~10%程度の市場成長を予想

いちよし経済研究所では中期的なサーミスタの市場成長を年率5~10%程度と予想します。自動車や空調機器などの世界需要台数の伸びが年率2~3%程度と想定されるなか、1 台当りの搭載本数の増加や新分野(医療機器や5G 基地局向けなど)の拡大などが貢献するでしょう。

また小型・薄型・高耐圧製品の開発、測温精度の向上、高温センサ等の新ニーズ開拓、といった製品の高付加価値化が図れる余地も十分にあると思われます。

中長期的な観点からも「環境対応」がキーワードとなるでしょう。地球温暖化などに対する警鐘が鳴らされるなかで、「温度を測る」ニーズはますます高まると考えられます。具体的には、省エネ対応機器の普及や脱炭素化に向けた温度制御の必要性の高まりなどです。

またIoT(Internet of Things)及びAI(人工知能)の技術進展などにより高度センシング社会の到来が現実的なものになれば、様々なセンサとの組み合わせによる社会変革の一翼を担うことも期待されるでしょう。

<文:企業調査部 張谷幸一>

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