相場のチャンスは“人間の過ち”にあり

プロ野球の日本ハムで同僚に暴力をふるったとして、全試合出場停止処分を受けていた中田翔選手が巨人に無償トレードされました。

批判覚悟で獲得に動いた背景を巨人の大塚淳弘副代表は「過ちを犯さない完璧な人間はいない。(中略)野球を辞める覚悟もあるということで、原監督と話して、一人の選手を救わないといけないという話になった」と説明しました。

過ちを犯さない完璧な人間はいません。人間は間違えます。相場もまた人が作るものですから間違えます。


日経平均も“ミスプライス”!?

相場が間違えた直近の例として先週後半の日経平均の動きが挙げられます。先週の日経平均は木曜(19日)金曜(20日)の2日間だけで500円以上値下がりし、一時は2万7,000円の大台も割り込みました。週末の終値では2万7,000円はぎりぎり保ったものの、年初来安値を更新、およそ8か月ぶりの安値をつけました。

そのきっかけのひとつは、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が年内のテーパリング(量的金融緩和の縮小)開始を示唆する内容だったことと、もうひとつは「トヨタが9月の世界生産を計画比で4割減らす」との報道が伝わったことです。

これらのニュースをきっかけに自動車関連株が大幅安になりました。半導体不足や東南アジアでの新型コロナウイルスの感染拡大が自動車の生産に影響を及ぼしていることが嫌気されました。特にデンソーの下げはきつく、一時は9%超の下落率となる場面もありました。

確かにこれらのニュースは一見、悪材料と思われます。しかし、それらを材料に2日間で500円以上も下げた日経平均の反応は「ミスプライス」、すなわち間違いだったと言えます。どうしてそう言えるのでしょうか。

いちばんシンプルで納得的な説明は、あっというまに相場が元の水準に戻ったからです。本稿執筆現在、日経平均は2万7,732円(8月24日終値)です。先週後半の下げを取り戻して、さらに上の水準にあります。

そんなにすぐに売りの材料となった事象自体が変わるわけはないので、市場の捉え方が変わったということです。そもそも相場が下げるきっかけとなった材料の捉え方自体が間違っていたため、その間違いを早期に修正したと言えます。

トヨタの減産についてのニュースは、当初から通期の生産計画930万台、販売計画870万台は据え置くと報道されていました。もともと想定していた通期の減産規模の範囲内で、連結業績予想にも変更はないといいます。

トヨタ以上に株価が下落したデンソーはトヨタの減産の影響について一時的な減益要因となるものの、トヨタが年度内に挽回生産を予定していることから、今期の利益に影響は出ないとの見通しを示しました。こうしたことから株価も下げた分をほぼ取り戻しつつあります。

FOMC議事要旨の読み方

FOMC議事要旨のニュースでは、「ほとんどの参加者が今年中に購入額の減額を始めることが適当と判断した」と報道されましたが、それは誤訳です。正確には「経済がFRBメンバーの見通し通りに幅広く進展すれば」という条件がついており、もしその通りに事態が進むなら、年内のテーパリング開始が適当だと「判断する」と「ほとんどの参加者が述べた」のです。

つまり、まだ「判断していない」のです。この点は重要です。実際、27日のジャクソンホール会議を対面からオンライン形式に直前に切り替えたのは新型コロナウイルス感染再拡大による景気へ懸念の表れで、「パウエルFRB議長はテーパリングへの言及を見送る可能性がある」という声も聞かれます。

テーパリング開始のタイミングは流動的で、まだコンセンサスはできていません。つまり「テーパリング年内開始」は可能性だけが示されたもので、あたかも「決定事項」のように捉えたことが間違いだったのです。

FOMC議事要旨発表を受けた債券市場は冷静でした。金利は1日を終えてみるとほぼ横ばいで、こちらは予想したほどタカ派ではない内容だと解釈したようです。つまり特段追加的な材料を提供するものではなかった、と。

すると大きく下げた株式市場の反応だけが間違っていたのでしょうか。S&P500は先週月曜日に史上最高値を更新していました。おそらく利益確定売りのきっかけにされただけで、米国株の投資家はテーパリング早期開始を心底恐れて売りを出したわけではないでしょう。

結局、米国株の下げを見て動揺して売られた日本株が割を食ったということです。それだけ日本株相場はプリミティブだということですが、悲観する必要はありません。ミスプライスが多いということは、それだけ儲かるチャンスが多いということですから。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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