
今回のテーマは、富良野。テレビドラマなどで知られる雄大な自然が広がる中、一部の地区では海外資本によるリゾート開発が進んでいる。開発の現状と、そこに暮らす住民がどのように共存していくべきか探っていく。
スキー場のふもとに高級コンドミニアム
スキー場のふもとに広がる富良野の北の峰地区。その地区内の小高い場所に、真新しいコンドミニアムが控える。フェニックス富良野。外資系の不動産開発会社ゼッケイが手掛け、去年12月にオープンした。

まずはスタンダードなタイプの部屋を案内してもらった。高級感がほどよく漂うリビングルーム。宿泊費は一泊2万円~4万円。リモートワーク用に借りる人もいるのだという。


そして、その隣にあるのが最高級のペントハウス。広さは約140平方メートル。6人がゆったりと宿泊でき、自然あふれる街並みも一望できる。一泊7万円~20万円の価格設定だ。

支配人のエバンズ・ギャレスさんによると、この施設には、こうした居室が33戸存在する。価格は1戸あたり3000万円~2億円で、1年くらいで全て売れたという。購入したのはいずれも外国人。オーストラリアやイギリス、中国、それにベトナムの富裕層が好んで取得したという。こうした施設はもともとニセコに多く見られたものだが、富良野には強みもある。

それが、夏の観光。スキーはもちろん、夏場のラベンダー観光もあり、通年で楽しめるリゾートとして海外資本が富良野に注目している。土地の値段は上昇しているものの、ニセコに比べればまだ安いことも投資を後押ししている。周辺ではこうしたコンドミニアムがあと2棟、建つ予定だ。

フェニックス富良野のそば、2018年12月にオープンしたホテルムニン。そのオーナーの林天同さんは、中国・北京の出身だ。北海道の雪質にほれこみ、移住を決めた。林さんは「ニセコより運営しやすいと思い、富良野を選んだ」と話す。


全29室で洋室がメインだが、外国人観光客が好む畳をしつらえた部屋も用意した。北の峰地区への進出の理由はやはり、夏場の集客がニセコよりも安定し、通年で営業しやすい点。林さんは「コロナ収束後にグランピングができるようなキャンプ場を造りたい」と、次の展開も見据えている。

住宅地購入も活発化 中古住宅も6000万円超え!?
開発の動きはペンションなど宿泊施設があった場所で先行したが、最近は住宅街でも活発化してきた。地元の不動産会社、オールアバウトフラノの池野正樹代表。投資家を相手に、北の峰地区の物件を仲介する仕事をしている。


最近多く取り扱うのは、戸建て住宅の情報だ。海外の富裕層が、売却を望む住民から住宅と土地を購入。別荘や民泊にする動きが増えてきているという。メイン通り沿いの一戸建てでは、中古住宅でも6000万円という物件もある。

そうした動きが、ある現象をもたらした。隣り合う土地でも、1坪8万円と1坪50万円で大きく価格に差が出ているのだという。その理由は土地の用途の違いだ。同じ北の峰地区の中でも、住宅や商店しか建てられないエリアと、ホテルや民泊といった宿泊施設も建てられるエリアが混在。その結果、宿泊施設を建てられるエリアの価格が今、海外資本によって引き上げられているのだ。

池野さんによれば、海外資本による不動産の取り引きは、2018年頃から活発化した。当時の土地の取引値は1坪当たり8万円ほどだったが、今では30万円超えがざらだ。

取材の最中にも、間もなく契約するという人からの問い合わせが。香港在住の投資家だ。購入の理由について「この不動産購入は私の退職後の別荘暮らしの計画であり、また貸別荘への宿泊料収入を見込んでの投資でもある」と話す。

おととし完成した貸別荘「山の音」。香港在住のイギリス人が所有する。富良野でも最高級の部類の別荘だ。現在の料金は1泊12万円~15万円で、コロナ前はもっと高かったという。

住民からは複雑な思いも… 地域コミュニティーの存続は
北の峰地区で35年暮らす岡村郁夫さん。第3町内会の副会長を務める。近年の急速な開発に驚きを隠せずにいる。

岡村さんが暮らす第3町内会の世帯数は、現在90戸ほど。わずか2年で約30戸減少した。このまま推移すれば、町内会が存続できなくなるのではないかと危惧している。そうすると、街路灯の管理など、美観を保つための活動などに支障が生じる可能性もあるという。

悩む行政 解決策はあるのか
富良野市の稲葉武則総務部長は「転売目的の不動産取得には非常に警戒している。地域のコミュニティーが保てなくなる」と危機感を強め、抑止力を持った条例の制定が待ったなしとの認識を示す。日本の風習や、ごみの出し方など富良野のルールの情報発信も重要だとする。


開発には観光収入の増加や雇用の維持といった、良い側面があることも事実。開発を一定程度容認しながら、いかに地域を守っていくか。市は、難しいかじ取りを迫られている。
(2021年8月28日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)