【入管庁問題】入管法改正潰し、蠢く人権団体|高山正之・和田政宗 名古屋出入国在留管理局で3月、収容中だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった。職員による対応や医療体制の不備などに注目が集まっているが、きっかけとなった毎日新聞をはじめとしたメディアの入管批判報道は、明らかに政府が進めていた入管法改正案を潰すことを目的としていたものだった!(この対談は6月に行われたものの再録です)

毎日新聞の”捏造”記事

――スリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが、収容されていた名古屋出入国在留管理局で、3月6日に亡くなりました。この一件で「入管庁の対応がおかしい」という入管庁批判の報道が相次ぎ、入管法改正案が見送りとなってしまいました。

和田 そもそものきっかけは、5月13日付毎日新聞の「名古屋・スリランカ女性死亡 入管報告、診療記録と逆」という記事です。

《2月5日に外部病院で受けた胃の内視鏡(胃カメラ)の診療記録を関係者から入手した。診療記録には、「(薬を)内服できないのであれば点滴、入院」と指示が書かれていた。しかし、法務省・出入国在留管理庁が作成した中間報告には、「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と反対の内容が書かれている。医師が書いた記録と入管の報告が食い違う事態になった》

つまり、入管が外部の医師の指示に従わなかったという記事です。これを読んだ時、記事のとおりであれば入管の対応はまずい、大変なことだと思いました。しかし、私は日本クルド友好議員連盟の幹事長をやっている関係もあって入管庁とはいろいろと話をする機会があり、入管はやるべきことはしっかりやるという組織と感じていましたので、記事に対して何か違和感がありました。

なにせ毎日新聞なので、もしかしたら都合のよい部分だけを書いているのではないか。「はたしてこんなことを入管が本当にするのかな」と。

そこで、まず毎日新聞が入手した診療記録、カルテは入管も当然持っていますので説明を受けたところ、毎日新聞はカルテの前段部分しか報じていないことがわかりました。

たしかにカルテの前段部分には、外部病院の医師が「(薬を)内服できないのであれば、点滴、入院」と書かれていますが、これは胃カメラ検査前の段階のものです。胃カメラ検査をしたところ、外部病院の医師は「ほぼ異常なし」で「投薬の継続でよい」と記載しています。

つまり、最終的には「投薬でよい」のだから、入管もそれに従ったに過ぎない。にもかかわらず、「点滴、入院」という部分だけを報じて、さも入管が従わなかったかのように印象付けているのです。

これは捏造大賞というか、逆ピューリッツァー賞をあげてもいいレベルの記事ではないでしょうか。

高山 私は毎日ではなく、朝日新聞と産経新聞でこの一件を知ったんだけど、朝日と産経であまりに書き方が違うので驚いた。朝日は毎日と同じく、痛ましい事件が起きて、入管けしからんという論調。産経はもう少しウィシュマさんがどういう人間だったのかを書いていた。

産経によると、彼女は平成29年6月に留学生として来日し、千葉県内の日本語学校に通っていたが欠席が続き、翌年6月に除籍され、行方も知れずに在留資格も失った。

和田 在留資格を失った段階で不法残留になりますから、入管も携帯電話に電話したり、書類を郵送したりしていたのですが、連絡がとれなかった。

高山 すると昨年8月、同棲している男のDVから逃れたい、と静岡県内の交番に出頭。母国に帰りたいというが所持金がない。

和田 入管庁の中間報告書によると、1350円しか持っていなかったそうです。

収容所で態度が一変

高山 スリランカの彼女の実家も金を出さないので、名古屋の入管局収容所に入って政府の金で送り返す強制退去処分を待っていた。

朝日、産経より少し遅れて、ニューヨーク・タイムズがより詳しい記事を書いた。基本的に日本の入管批判を書いていて、収容所がひどい環境で手を尽くさなかったからウィシュマさんが死んだかのような記事になっていた。

しかし一方で、日本の新聞が報じていない彼女の事実も報じていた。

ウィシュマさんが収容所で強制退去を待っていたところに、一足先に帰国していたDV男から手紙が届いた。なぜ男が居所を知って、なぜ彼女に手紙を書く気になったのかはわからない。手紙にはこうあった。

「おまえが日本の警察にチクったから酷い目に遭った。国に戻ってきたら仕返ししてやる」

ちょうどそのころ、難民などの支援にあたる団体「START」の人間や、入管を退職して「未来入管フォーラム」という団体の代表をしている木下洋一といった人物が彼女に会っている。そして、男からの手紙で彼女は「帰国すれば命の危険があるから、日本に残りたい」と言い出すと、人権団体はそれを支持した。

和田 帰るところも仕事もなかったので「スリランカに帰国したい」というのが、当初の彼女の考えでした。ただ、新型コロナ感染拡大の影響でスリランカ行きの定期便がなかったので、収容施設に入れていた。なるべく早く帰国できるように入管は動いていたのですが、高山さんがおっしゃったように、日本人の支援者と称する人が面会に来て、そこで考えを翻し、突如「日本に住み続けたい」と言い出したのです。

高山 その時点までの健康状況は?

和田 1月14日までは体調不良を訴えたことは全くない。1月15日に少しの吐き気を訴えて、夕食は摂らなかったけれども、就寝前には職員に対して「少し気持ち悪いが体調は大丈夫」と言っていたそうです。

高山 「体調不良を訴えろ」と人権団体が助言したのかな?

和田 そのへんの事情はわかりませんが、支援者との面会によって、帰国希望から在留希望へと切り替わったのはたしかです。

入管の対応に問題は……

高山正之氏(左)と和田政宗氏(右)

高山 ニューヨーク・タイムズには、食事についてパンを少々、水と砂糖を摂っていたとある。流動食にするほど衰えてはいないという感じで書いていた。

和田 入管の中間報告によると、当然、給食など食事は与えていて、それを食べたり食べなかったりしていた。一方で、面会者から差し入れでもらった金銭を使用して、飲食物を購入していたそうです。入管は体調が悪くなってからも、給食に加え、経口補水液などを与えて、栄養を取れるようにしていました。

ウィシュマさんは仮放免を求めていましたが、1回目の申請は体調が悪くなる前の1月4日。この時は不法残留となったあとに所在不明になったことを踏まえ、不許可になった。

2月22日に2回目の申請が出され、体調などの状況を考慮して許可する検討に入っていたものの、3月6日に亡くなってしまった。決して入管が絶対に仮放免を出さないようにしていたわけではありません。

毎日をはじめとする報道は、入管が何もせず、仮放免すら検討せず、死に追いやった――という感じで書いていますが、中間報告を丹念に読めば、とてもそうは思えません。

しかしながら、ウィシュマさんがお亡くなりになったことは、あってはならず、入管は反省すべき点を反省をして再発を防止しなくてはなりません。

高山 しかも、彼女は処方された薬の服用を拒んで病状が悪化した。それは誰の責任なのか、誰かに薬を飲むなと言われたのか。

和田 中間報告にそのまま載っているので申し上げますと、3月4日に外部病院の精神科の医師が診察をしたところ、「病気になることによって仮放免をしてもらいたい」との思いが作用して心因性の障害を生じさせている可能性があるとして、身体化障害の疑いの診断をして、睡眠導入剤、抗精神病薬を処方しています。

高山 人権団体が「あなたは出られるのに出させてもらえない」と心理的な負担を与えたんじゃないか、と疑いたくなる。そもそも、DV男の手紙があまりにも都合のよいタイミングと内容だ。

ニューヨーク・タイムズは入管に批判的でありながら、こういったこともきちんと報じている。日本の新聞はなぜ報じないのかね。

改善案が潰された

和田 今回の毎日などの入管批判報道の何が酷いかというと、明らかに政府が進めていた入管法改正案を潰すことを目的としていたことです。

そもそも改正案は、たとえばクルド人が日本でトルコ政府に批判的なクルド系政党への支援活動をしたことによって、トルコで事後の政治犯にされてしまい、帰国したら逮捕されてしまう事態になっている。

そういった方々を難民に準じて保護すべき外国人として、補完的保護対象者という名前で保護するようにする。また仮放免も、監理人を定めて監理措置という形にして外部で活動できるようにする。改正というよりも、明らかな改善案だったのです。

高山 ウィシュマさんに入れ知恵した人権団体は、彼女が死んでから妹2人をスリランカから呼び寄せ、上川陽子法相と面会させた。そんな金があるなら、最初からウィシュマさんの飛行機代を出せばよかったのに。

和田 難民申請も、これまでは繰り返し申請できたのですが、それを2回までに制限し、それ以降は国外退去処分にするようになります。この点を「冷たい対応だ」と批判されますが、難民審査の現場の状況に携わっている方からはこんな話を聞きます。

たとえば、「自国のAという組織から迫害を受けているから難民申請をします」と言っていた人の話を審査してみたら事実と違っていた。

それを指摘したら、今度は「Aからというのは勘違いでした。本当はBからです」と言う。そうするとまたそれが事実なのかを審査し、それが違えば今度は「Cからでした」……。申請が却下されても再申請をし続けている限り、送還されることはないのです。

高山 そういう繰り返し申請組は3100人もいて、その8割が病気などを理由に仮放免されている。

和田 仮放免は本来、軽々にできるものではありません。もし、仮放免中にその人が逃走してしまったらどうなるか。不法滞在者ですから、まともな仕事にはつけない。裏社会に潜り込むしかなくて、窃盗や麻薬売買、場合によっては傷害、殺人に手を染めてしまう。これはわが国の治安を、また一般国民の安全安心を危うくさせるものです。ですから、仮放免ではなく監理措置という、もっとしっかりとした制度にしようとしているわけです。

――野党や新聞は、なぜ反対をしているのですか?

和田 基本的に改善案ですから、反対する理由はありませんよね。ただ想像するに、政府提出の法案ですから、これを潰せば「菅政権がおかしなことをしている」と印象付けられる。それが狙いかもしれません。

高山 改正案は、本当に困難な環境に置かれている外国人にとっては改善以外の何ものでもなかったのに、目先の欲で潰してしまった。

和田 この一連の報道は、実はモリカケと全く同じ構図です。

森友は、財務省の報告書などを読み込めば、安倍総理の関与がなかったことは明白。また、加計に関しても、獣医学部新設に恣意的に関与はできない構造になっています。しかし朝日や毎日は、「何か怪しい」として報じ続けていた。

今回も中間報告をきちんと読めば、何が起こっているかはわかります。ところが、「入管が何か悪いことをしたのだろう」と思い込み、入管法改正案を潰すために、中間報告から切り取りを行って批判記事を書いた。

敷居がノーズロな日本

高山 在留資格をめぐっては、2009年に起きたフィリピン人のカルデロン一家の件が大きな話題になりました。

一家の両親は1990年代前半に、それぞれ他人名義のパスポートを使って日本に不法入国。そして日本で結婚し、95年に長女が生まれた。日本は不思議な国で、この長女も身元を確認もせずに普通に小学校に入学しているんですね。

2006年、警官による職務質問によって、母親が出入国管理法及び難民認定法違反で逮捕されて、一家3人に対して退去強制令書が発付された。

ところが、娘は日本育ちでタガログ語が話せないので帰国させるのはかわいそうだ、残してやるべきだ、だったら一家丸ごと残してあげようといった声が上がってきた。毎日新聞なんか社説で、「カルデロンさん親子 在留を許すべきケースだ」などと書いていた。結局、両親は送還され、長女は在留特別許可を得て1年間残った。

この時、不法入国、不法滞在なのだから法に則って対応すべきだ、と主張していたのは産経新聞だけ。今回だって、きちんと対応すべしとしていたのは産経だけだった。

どうも日本は、国境という敷居をノーズロ(無防備)にする傾向がある。カルデロン一家から12年経った現在どうなのか。たとえば6月13日付の朝日新聞は、「ベトナム大手5社の実習生、受け入れ停止へ 失踪多数で」と報じていた。日本の受け入れ企業から提出される各実習生の実習計画に記載された送り出し機関の名前と突き合わせて、失踪者が多発している送り出し機関を特定し、18年と19年の合計の失踪者数の割合が平均の約3倍を超えた5社が受け入れを停止することになった。

つまり、正規のルートで来て逃げ出し、日本のなかに潜り込んでいる連中が多数いるということだ。

そういう現実を見て、もっと敷居を高くしたり、出入国の管理をよりしっかりしたものにする議論がされるべきなのに、今回の毎日の記事のように、いかにも入管のやることは悪いことという報じ方をして邪魔をしている。

国連の関連組織に国際移住機関(IMO)がある。川口マーン惠美さんによると、移民に関する一番の権威だという。ここの移民の定義は「当人の①法的地位、②移動が自発的か非自発的か、③移動の理由、④滞在期間にかかわらず、本来の居住地を離れて国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」のこと。

問題は、移動の理由が問われないという点。すなわち国連では、人間には国境を越えて他国へ行く権利があるとされている。国境侵犯をしても、それを当然の権利として認めようとしている。

さすがにこれはおかしいと思う国が出てきて、2016年にIMOの下部組織GFMO(移住と開発に関するグローバル・フォーラム)が移民コンパクト(協定)採択の準備を始めた際に、オーストリアが「移住の権利という人権は、オーストリアの法的基盤においては未知である」と拒否。さらにアメリカ、オーストラリア、ハンガリー、ポーランド、チェコ、ブルガリア、イスラエルなども拒否した。ドイツだけが熱心に移民や難民を受け入れようとしていて、EUが分裂気味になっている。

日本は、なんとこの移民コンパクトを採択しているというんだ。日本に来るといったら、朝鮮人と中国人が主だろう。いま中国不安、朝鮮不安が起きているなかで、行きたい国は「憧れの日本」になる。日本としては来られても困るというか、入管が大変だ。だからこそ、入管法の改正は必要なものだった。

いま世界の人道主義みたいなものがバーッと日本にも押し寄せてくるような形で、LGBTとか、同性婚とか、夫婦別姓とかが話題になっている。だけど、年がら年中テレビ番組にオカマが出ているような日本で(笑)、いまさらLGBTだなんだというのは的外れじゃないかな。同性婚も、たとえば折口信夫みたいに養子縁組をすることで相続などの問題をクリアしてきた過去もあるのだから、無理に押し通す必要があるとは思えない。

和田 何もかもを新しい権利として、国民的コンセンサスもできていないのに認めろというのは困難です。

難民の件でいえば、不法入国者や、残留期限が切れてしまった人は、たとえ困っていると言われても法的にはアウトです。むろん最大限人権には配慮するにしても、その人の権利を全て認めて日本に定住させればいいというわけにはいきません。

LGBTにしても、夫婦別姓論にしても、何が困っていることなのかをしっかり整理しなければなりません。

LGBTに関していえば、日本社会は古からそういったものに非常に大らかだった。戦国武将と小姓の関係であったりだとか、大奥のなかであったり……そういった日本の大らかさを前提として話をすべきでしょう。

新聞記者の自己陶酔

――毎日新聞の件ですが、記者は調べればわかるものを、あえて隠したりするのはなぜですか。

和田 私はジャーナリスト出身ですが、そもそも記者としてこういう記事は書けません。書こうと思ってもペンが止まりますよ。嘘を書くわけですから。

高山 「入管法改正案を阻止するための格好の材料が見つかった」くらいに思っているんじゃないかな。これでだらしないままの日本の入国システムを維持できる、と。

和田 新聞によっては、野党の議員に記事の内容を提供して、それで質問をしてもらって、また記事にするという、まさにマッチポンプ。

繰り返しになりますが、ウィシュマさんが入管施設で亡くなったことは、それ自体、入管としてはあってはならないことで、真摯に反省をして再発防止等に努め、改善に繋げていかなくてはならないことです。

しかし、事実を歪めて報道されてしまうと、事実に基づいてやらねばならない再発防止が進められない。結果、入管施設にいる人や本当に難民申請を必要としている人のためにならない。そのことを自覚していただきたい。

――今回潰されてしまった入管法改正案は、今度どうなるのでしょう?

和田 このままの法案で出すのか、さらなる改善をするのかは、まだわかりません。しかし、この法案は日本のために、ひいては本当に困難な環境に置かれている難民や、難民に準ずる方にとっては必要なものですから、私個人としてはぜひとも提出して進めるべきだと考えています。提出の時期などは、また政府が判断されると思います。

高山 これは私的な意見だけど、私は内務省を復活させるべきだと思う。

内務省は総務省、警察庁、国土交通省、厚生労働省を合わせた巨大な省で、同時に、いま法務省が担っている入管業務にも携わっていた。

今回のウィシュマさんの件を見ると、アメリカだったら9.11テロを機に出入国管理を徹底させるために新設された国土安全保障省(DHS)がすぐに出頭命令を出して、応じなければ警察権を使って行方を追ったはずだ。いまの入管局にはその力はない。内務省の入管局として、強い権限を持たせないと対応できないのではないか。

内務省復活は、新型コロナ対策でも有効だったはず。いまはタテ割り行政で、それぞれ省が違うでしょ。

和田 入管は法務省、検疫は厚労省、ワクチンを運ぶのが国土交通省で、外交的事案は外務省と分かれていますからね。

高山 それでは対応しきれない。そういう意味でも、日本は国境という敷居が低いんだな。この際、内務省再興を本格的に考えてみてもいいはずだ。

(初出:月刊『Hanada』2021年8月号)

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高山正之 | Hanadaプラス和田政宗 | Hanadaプラス

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