「毎日通いたくなる学校に」全国で進む校則見直し

長野県松本市が開いたフォーラムで互いの校則について話し合い、課題を指摘する市内の生徒たち=2020年11月(同市提供、画像の一部を加工しています)

 下着の色指定、地毛の色の申告制…。人権やプライバシーに関わる不合理な校則への批判が高まり、見直しの動きが広がっている。文部科学省は6月、全国の教育委員会に見直しを通知。取り組みの事例に、生徒総会での見直しの議論や改定手続きの明文化などを挙げた。「変わらないのが当たり前」だった校則は、一気に見直しが進むだろうか。(共同通信=松本智恵ほか)

 ▽「内申書に響く」と言われ

 「生徒総会は校則を話し合う場じゃないと先生にくぎを刺された」「校則に意見すると『内申書に響くぞ』と言われ、口をつぐんでしまう」。福岡県弁護士会が福岡市内の中学を対象に昨年実施した調査への回答からは、子どもたちが議論に持ち込みづらい実態が浮かんだ。

 日本では子どもの権利主張を「わがまま」と見なす風潮が根強い。国は1994年、児童らの意見表明権を定める「子どもの権利条約」を批准したが、国連はたびたび対応の改善を勧告。2010年には「学校が児童の意見を尊重する分野を制限している」と懸念を示している。

 福岡県弁護士会は調査を経て「不当な抑圧」を問題視。合理的理由が説明できない校則は見直し、その際には生徒の意見を反映させるべきだとする意見書を県・市教委などに提出した。

福岡県弁護士会の記者会見=今年2月

 そもそも厳しい校則はなぜできたのか。

 岩手県立大槌高の場合、約30年前、生徒の喫煙などが問題になり、生活態度の立て直しを迫られた。身だしなみのルールが増え、約15年前からは月に1回、生徒を1列に並べ、前髪が眉毛にかかっていないかなどをチェックする「整容指導」が続いてきた。違反者には直すまで指導が続く徹底ぶり。赴任してきた教諭が「厳しすぎる」と驚くほどだった。生徒指導課長の熊谷一郎教諭は「生徒はこういうものだと諦めていたようだ」と当時を振り返る。生徒から反発はなかったが、指導が一方的ではないかという思いは消えなかったという。

 ▽厳しい指導と「魅力化」は一致しない

 校則見直しの動きは17年、大阪府立高の生徒が地毛の黒染めを強要されたとして提訴したのをきっかけに広がっていった。

 大槌高は東日本大震災後、生徒数の減少に悩み、魅力ある学校づくりが急務に。学校に活気を取り戻そうと教員と生徒が話し合う中で、生徒会のメンバーから「校則を変えたい」と声が上がった。志田敬副校長も「厳しい指導と学校の『魅力化』はどうしても一致しなかった」と打ち明ける。指導法を変えようと熊谷教諭に提案してみると「反対されると思ったが、意外と同じ思いだった」。

 昨年4月、校則見直しに声を上げた生徒会メンバーが取り組んだのが「生徒宣言」の策定だった。「やみくもに変えたいと言っても、きっとわがままだと思われる」と考え、理想とする学校とは何かを先に話し合い、それに沿った校則の変更を目指す作戦を立てた。生徒総会で同5月に承認された宣言には「全員が個人を尊重し『毎日通いたくなる学校』」などの内容が明記された。

校則について話し合う岩手県立大槌高の生徒ら=2020年5月(大槌高提供)

 まず着手したのが、襟足などを刈り上げて段差を付ける髪形「ツーブロック」の容認だ。ツーブロックにする大人がいるのに、なぜ高校生はだめなんだろう。生徒からの提案に、教師は当初「髪形が理由で企業の面接に落ちる恐れがある」と反対した。

 印象が悪いって本当だろうか? 調査をしようと、生徒は保護者全員にアンケートを実施。ホテルなどの地元企業にもツーブロックの印象を尋ねた。教師の思いとは裏腹に、多くの保護者は「清潔感がある」などと好意的で、企業も「特に抵抗はない」との回答だった。

 アンケートの結果に、学校側は「根拠に基づいた生徒からの提案を受け、納得できた」としてツーブロックを認め、長年続いてきた整容指導もなくした。ほかにも、下校時のジャージー着用や白以外の靴下の着用もできるようになった。

 熊谷教諭は「生徒が納得していないものを指導するのは私たちも苦しい。見直しを通じ、生徒にも教師にも新たな発見や成長があった」と強調する。

 ▽見直しのプロセスを明確化

 プロセスや対話は校則見直しの重要なポイントだ。

 岐阜県教委は19年、全県立高に対し、下着の色を制限する校則について「ルールを守っているか確認をする行為自体が、新たな人権問題になりかねない」として、削除を指示。さらに今年5月、見直しには生徒が考える機会を設けることや、改定の手続きを明文化することを通知した。県教委担当者は「プロセスが分からないと、見直しのしようがない。生徒が自分たちの学校のルールをより良いものにしていくことは、主体的に考える力を養うことにつながる」と話す。

 福岡市は、LGBTQ(性的少数者)の関連団体や弁護士らを交えた協議会を設置し、校則見直しの留意点などを議論。その内容を踏まえ、市立中学の校長会は生徒や保護者も参加する「校則検討委員会」の設置を各校に求めた。長野県松本市は、市内の生徒らが互いに校則を比べ合い、課題を検討する場を設けた。熊本市では市教委がかじを取り、4月から校則制定・変更への児童生徒の参画を義務化。地毛の色に学校の承認を必要とするなど人権侵害につながる規制は「必ず改定」するよう求め、校則の公開を促すガイドラインを策定した。

 「ルールは本来、個人を制限するのではなく自由を保障するためにある」。熊本市教育委員の苫野一徳・熊本大准教授(教育学)はこう指摘する。さらに学校はその本質を学ぶ場所だが「その大前提を踏まえていないのではないか」と懸念している。子どもたちを細かなルールで縛り、違反すると厳しく罰することもある。その結果、子どもたちは他人の自由も尊重できなくなり「負のスパイラルに陥っている」とみる。

 ルールの見直しには、子どもを信頼して見守ること、教師と生徒の対立構図にしないことが大切だと苫野准教授。教師にとっても働きやすい職場にする機運と捉え「児童生徒と教師が対等な立場で対話する機会を継続的につくるべきだ」と指摘する。

 最近では、民間非営利団体(NPO)とともに校則の見直しに取り組む学校も出てきた。校則や指導に関する疑問を、歌やドキュメンタリー映画にして、動画投稿サイトで公開している生徒たちもいる。苫野准教授は「知恵を交換し、刺激し合いながら見直しを進めることで、これまでにない良いスパイラルが起きると思う。挫折もあるだろうが、変えようとする経験は貴重な学びとなる」と話した。(取材、執筆=松本智恵、宮崎功葉、小川美沙)

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