ビートルズ『Let It Be』スペシャルエディション発売決定。ポールのコメントも掲載

1970年5月8日に発売されたザ・ビートルズ(The Beatles)による最後のオリジナル・アルバム『Let It Be(レット・イット・ビー)』が2021年10月15日にスペシャル・エディションとして発売されることが発表となった。

今回の『Let It Be』スペシャル・エディションにはオリジナル・アルバムのニュー・ステレオ・ミックス及び5.1サラウンド・ミックス、ドルビー・アトモス・ミックスに加え、レコーディング・セッションの過程で残されたアウトテイク、リハーサル・テイク、スタジオ・ジャム等の未発表音源、1969年にグリン・ジョンズによって制作された未発表の『Get Back LP』ミックスも収録。

発売形態は「5CD+1Blu-ray」「2CD」「1CD」「4LP+EP」「1LP」「1LPピクチャーディスク」に加えてデジタルでの配信となる。

このスペシャル・エディションの発表に合わせ、「Let It Be (2021 Stereo Mix)」、「Don’t Let Me Down (First Rooftop Performance)」、「For You Blue (1969 Glyn Johns Mix)」(『Get Back』LPミックス)の3曲が先行して公開となった。

オリジナルの『Let It Be』は同名の映画製作と同時進行したレコーディングの膨大な音源をフィル・スペクターがリプロデュースしたもので、全英チャート8週連続、全米チャート4週連続1位の大ヒットを記録。タイトルトラックの「Let It Be」は、2009年に日本で行われ26万票が集まったザ・ビートルズ楽曲人気投票ランキングにて堂々の1位を記録している。

 <予告編:ザ・ビートルズ「Let It Be | Special Edition Releases」>

今回のアルバム『Let It Be』スペシャル・エディションは、プロデューサーのジャイルズ・マーティンとエンジニアのサム・オケルによって新たにステレオ、5.1サラウンドDTS、Dolby Atmosでミックス。これまでにザ・ビートルズの50周年記念リミックス・エクスパンデッド・エディションは『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(2017年)、『The Beatles (White Album)』(2018年)、『Abbey Road』(2019年)がリリースされ、いずれも全世界で高く評価されてきたが、今回の豪華なスペシャル・エディションはその最新作にあたる。

今回リリースされる新たな『Let It Be』は、フィル・スペクターが「リプロデュース」したオリジナル・ヴァージョンをお手本としたニュー・ステレオ・ミックスをすべてのフォーマットで採用。このニュー・ミックスは、オリジナル・レコーディング・セッションやルーフトップ・コンサートの8トラック・テープから直接作り出されている。スーパー・デラックス・エディションのフィジカルおよびデジタル・ヴァージョンでは、さらにこれまで未発表だったスタジオ音源27曲、4曲入りEP『Let It Be』、1969年5月にエンジニアのグリン・ジョンズがまとめた14曲の未発表『Get Back』ステレオLPミックスも収録している。 

1969年のビートルズ

1969年1月2日、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人は、ロンドンのトゥイッケナム・フィルム・スタジオのがらんとしたサウンドステージで新年をスタートさせた。ここでザ・ビートルズは、かつての自分たちの居場所 ―― つまりライヴ・ステージに戻ることを目的としたプロジェクトのリハーサルに入った。

それから21日間にわたり、ほとんどすべての瞬間がカメラとテープレコーダーで記録された。セッションはまずトゥイッケナムで始まり、やがてザ・ビートルズのメンバー自身が設立したアップルのレコーディング・スタジオに移った。アップル・スタジオでは、さらにビリー・プレストンがキーボード奏者として演奏に加わっている。彼らは一緒に新しいオリジナル曲をリハーサルしたほか、昔の曲でジャム演奏を繰り広げた。そうした模様は、すべてありのままにライヴで記録されていた。

同年1月30日、カメラとテープレコーダーが回る中、ザ・ビートルズはプレストンと共にライヴ演奏に臨んだ。そしてそれが、このグループの最後のコンサートになったのだった。場所はサヴィル・ロウにあったアップル・コア本社の肌寒い屋上で、観客となったのは少人数の家族や友人たち、そしてアンプの音が風に乗って届く範囲にいた人たちだった。この真昼間のコンサートのおかげで、ロンドンのウエストエンドでは誰もが仕事の手を止めた。通りでは道行く人が上の方を見上げ、近隣のビルにいた人は窓を開けて見晴らしを良くした。やがて騒音に対する苦情が相次いだ結果、警察官が屋上に駆けつけ、コンサートは42分で終了となった。

4月から5月にかけて、レコーディングの成果を1枚のアルバムをまとめる作業をグリン・ジョンズが行なった。このアルバムは『Get Back』と呼ばれる予定だった。このジョンズがまとめたヴァージョンには、出だしで失敗した演奏や曲間の会話が含まれていた。また、回数を重ねてより洗練されたテイクではなく初期のテイクが選ばれ、演奏がバラバラに崩れていく「I’ve Gat A Feeling」 (「うるさくしようとしてしくじった」と説明するジョンの声を含む) も入っていた。

しかしザ・ビートルズは、このプロジェクトの膨大なテープやフィルム、写真をお蔵入りにして、その代わりに傑作LP『Abbey Road』をレコーディングし、リリースした。その後、映画『レット・イット・ビー』の公開に合わせて、ザ・ビートルズの最後のアルバム『Let It Be』が1970年5月8日 (アメリカでは5月18日) に発表された。このアルバムは、1969年1月に録音されたテープとその前後のレコーディング・セッションの音源を元にして作られたものだった。 

アルバム、ドキュメンタリー映画、書籍とポールのコメント

アルバム『Let It Be』と同名の映画を生み出したセッションでは、スタジオ内での音楽制作の模様が非常に長時間にわたって記録された。ザ・ビートルズのキャリアの中で、これほど徹底的に現場の模様が記録されたのはこの時だけだった。今年の秋に発表されるザ・ビートルズの3種類(アルバム、ドキュメンタリー映画、書籍)のリリースは、60時間以上の未発表映像、150時間以上の未発表音源、数百枚の未発表写真の中から素材を新たに選りすぐり、丹念に修復した決定版と言える内容になっている。その3種類は互いに補い合う構成になっており、秘蔵資料の全体像を五感で楽しめる豪華なセットとなっている。

今回の『Let It Be』スペシャル・エディションと共にリリースされるのは、待望のドキュメンタリー・シリーズ『ザ・ビートルズ: Get Back』 (監督はアカデミー賞を3回受賞した映画作家のピーター・ジャクソン。ディズニープラスにて11月25日から配信) とハードカヴァー仕様の豪華本『ザ・ビートルズ:Get Back』(日本版はシンコーミュージックより10月15日発売)である。これらの新たなリリースのために発掘された素材は、1970年の80分の映画『レット・イット・ビー』で伝えきれなかったことを明らかにしている。つまり1969年初頭のセッションは、あの映画で見るよりも楽しげで慈愛に満ちたものだったのである。ポール・マッカートニーは、『Let It Be』スペシャル・エディションのブックレット序文で次のように述べている。

「映画『レット・イット・ビー』のオリジナル版は、ザ・ビートルズの解散と関係していた。だから僕は、かなり悲しい作品だとずっと感じてきた。けれど今回の新しい映画は、メンバー4人のあいだにあった友情と愛情を映し出している。ここには、僕らが一緒に過ごした素晴らしい時間も記録されている。新たにリマスタリングされたアルバム『Let It Be』と共に、これはあの時代を思い出させてくれる力強い作品となっている。僕が思い出したいザ・ビートルズはこういうザ・ビートルズだった」

『Let It Be』の制作

ザ・ビートルズの面々がトゥイッケナムに集まった1969年1月の時点で、1968年11月にリリースされたアルバム『The Beatles』はまだ世界中の国でヒット・チャートの首位に留まっていた。この時彼らが抱いていた野心的なプロジェクトの計画には、「テレビ・スペシャル」でのライヴ演奏やライヴ・アルバムの制作が含まれていた。それに向けたリハーサルやコンサートのドキュメント映像の監督には、マイケル・リンゼイ=ホッグが起用。こうしてセッションの模様は、カメラとそれに連動したナグラのモノラル・テープ・レコーダー2台でつぶさに記録されることになった。

また写真記録担当の専属カメラマンとしてイーサン・A・ラッセルが起用され、あらゆる場面の撮影が許可された。そして音響面は、ザ・ビートルズのプロデューサーのジョージ・マーティンとエンジニアのグリン・ジョンズが監修することになった。ジョンズは次のように振り返っている。

「ポールから私のところに依頼が来た。それは、ライヴ・コンサートをやる計画があるからそのエンジニアをやってほしいという内容だった。私に話が来たのは、ライヴ・アルバムの制作でなかなかの実績を挙げていたからだった」

一方マーティンは、新曲を日毎に進歩させていくザ・ビートルズの仕事ぶりに感銘を受け、のちにこう振り返っている。

「あれは素晴らしいアイデアだった。やる価値は十分にあると思った。新曲でライヴ・アルバムを作るというのはすごいことだ。ライヴ・アルバムを作る場合、ほとんどの人は昔の曲を焼き直すだけだから」

トゥイッケナムのサウンドステージで10日間を過ごした後、ザ・ビートルズと映画の撮影スタッフはもっと居心地のいいアップル・スタジオにセッションの場を移した。ここではジョンズがレコーディング機材を操作し、8トラック・テープに演奏を録音していった (機材は、ザ・ビートルズが昔から使ってきたアビー・ロード・スタジオから借りていた) 。またアップル・スタジオではキーボード担当としてビリー・プレストンが招かれ、多方面にわたる才能と楽天的な気さくさでセッションを盛り立てた。

1969年4月、ザ・ビートルズはシングル「Get Back / Don’t Let Me Down」を急遽発表し、世界各国でチャートの1位に送り込んだ。「生まれたままの姿のザ・ビートルズ」、さらには「電子時代の今、可能な限りライヴで」という宣伝文句で売り出されたこのシングルは、両面とも「ザ・ビートルズ・ウィズ・ビリー・プレストン」とクレジットされていた。2002年にビリー・プレストンは次のように振り返っている。

「一番驚いたのは、あのレコードが出た時だった。俺の名前がクレジットされているなんて、全然教えられていなかったんだ! ザ・ビートルズは本当に親切にしてくれた」

シングル「Let It Be」はジョージ・マーティンのプロデュースで1970年3月6日に発表された。これは、フィル・スペクターが「リプロデュース」したアルバム・ヴァージョンとは異なっていた。スペクターは、自らの代名詞である「ウォール・オブ・サウンド」の音作りでアルバム『Let It Be』を仕上げた。その顕著な例は、オーケストラがオーヴァーダビングされた「The Long And Winding Road」だった。この曲は、ザ・ビートルズが全米チャートの首位に送り込んだ20枚目のシングルとなった。 

誰も見たことがなかった未公開映像で作られるドキュメンタリー

ピーター・ジャクソン (『ロード・オブ・ザ・リング』三部作、『彼らは生きていた』) が監督したドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』では、音楽の歴史の中でも重要な時期に行われたザ・ビートルズのセッションを目の当たりに観察できる。ジャクソンは過去3年にわたって膨大な量の映像の復元と編集を行なってきた。そうした豊富な資料を基に作られた『ザ・ビートルズ:Get Back』は、三つのエピソードで構成されている。各エピソードはそれぞれ約2時間の長さで、2021年11月25日からディズニープラスで見放題独占配信される。

このドキュメンタリー・シリーズは、ザ・ビートルズの作品を伝説の域にまで高めた天賦の才能とメンバー間の温かい友情を描き出している。その素材となったのは、1969年1月に撮影された60時間以上に及ぶ未公開映像 (マイケル・リンゼイ=ホッグ撮影) と150時間以上に及ぶ未発表音源である。こうした映像や音源は、見事な形で復元されている。過去50年間、これらのプライベート・フィルム・アーカイブに立ち入ることを許可された人間はジャクソン以外にいなかった。

『ザ・ビートルズ:Get Back』は、2年ぶりにライヴを行うことを計画したジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの物語である。ここには、映画と同時にリリースする予定だったライヴ・アルバム用の新曲14曲の曲作りとリハーサルが記録されている。このドキュメンタリーには、ザ・ビートルズがグループとして行なった最後のライヴ演奏、つまりロンドンのサヴィル・ロウでのルーフトップ・コンサートが初めて全編収録されている。さらにはザ・ビートルズの最後のアルバム2枚、『Abbey Road』と『Let It Be』に収められた数々の名曲もフィーチャーされている。このドキュメンタリー・シリーズで聴ける楽曲も、やはりジャイルズ・マーティンとサム・オケルの手で新たにミックスされている。

豪華本の出版とシルク・ドゥ・ソレイユ

さらにドキュメンタリーの公開に先駆け、豪華本『ザ・ビートルズ:Get Back』が10月12日に全世界で発売される(日本語版はシンコーミュージック・エンタテイメントより発売予定)。英語版の他、9ヶ国語の翻訳版でも発表される『ザ・ビートルズ:Get Back』は、世界的ベストセラーとなった『ザ・ビートルズ・アンソロジー』以来のザ・ビートルズ公式書籍となる。

この書籍は240ページのハードカヴァー仕様で美しくデザインされ、ドキュメンタリー・シリーズ『ザ・ビートルズ:Get Back』とアルバム『Let It Be』スペシャル・エディションを補う内容になっている。ここには、3週間のリハーサルやセッションで録音されたザ・ビートルズの会話の多くが採録されており、イーサン・A・ラッセルとリンダ・マッカートニーが撮影した写真を含む未発表画像も数百点収録。序文はピーター・ジャクソン、イントロダクションはハニフ・クレイシがそれぞれ執筆した。この本のテキストはジョン・ハリスが編集している。

さらに8月26日より、ラスベガスでは、シルク・ドゥ・ソレイユの「The Beatles Love」の上演が、ミラージュ・ホテル&カジノで再びスタートする。15周年を迎えたこの世界的に有名なショーでは、70人のアーティスト・キャストが360度全方向ステージで空中アクロバット、鮮やかなビジュアル、エネルギッシュなダンスを披露し、ザ・ビートルズの音楽を魅力的に表現している。2006年6月30日のスタート以来、「Love」は評論家から絶賛され、総観客数は1,000万人以上にのぼっている。

Written By uDiscover Team

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ザ・ビートルズ『Let It Be』
2021年10月15日発売

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