日本神話にも登場する愛媛・道後温泉
四国を代表する名湯といえば、愛媛県の道後温泉。日本神話にも登場することから、日本三古湯(※1)のひとつといわれています。
「神話の時代からある温泉とはどんなものだろう」。
東京在住のフォトグラファーである筆者は、今回、道後温泉でもっとも有名な「道後温泉本館」を訪問しました。筆者にとっては初めての四国旅行でもあり、期待に胸がふくらみます。
その体験レポートをお伝えします。
伝説の石が残る放生園
道後温泉本館に電車でアクセスする場合、道後温泉駅が最寄りになります。
駅前広場から南北へ伸びる道後商店街の入口脇で、さっそく足湯を発見。
こちらは「放生園(ほうじょうえん)」と呼ばれるスポット。
足湯から重厚感のあるオーラを感じるのは、湯釜に彫られた邪馬台国(※2)の方のような、はたまた神様のような方のせいでしょうか。
その昔、足の傷ついた白鷺が岩間から出る温泉を見つけ、足を浸していたところ、傷が完全に癒えたという伝説があります。これが道後温泉発祥の由来になっているとか。
この白鷺の足跡がついた鷺石は、足湯の隣で見ることができます。
存在感のある街のシンボル・道後温泉本館
さて、商店街を抜けると道後温泉本館は目の前。突如として現れる和風の建物は、圧倒的な存在感を放っています。
日本最古の温泉という先入観があるせいか、何百年もこうしてこの地に佇んでいるかのように思えてしまいます。しかし実際は、1890年以降に建て替えられ、このような堂々たる姿になったのだそう。
道後温泉本館の浴場には、大浴場の神の湯と、こじんまりとした霊(たま)の湯(※)があります。入浴以外に、休憩室の利用の有無、お茶とお茶菓子の有無も選ぶことができます。
今回は直感に従って、「神の湯の入浴・休憩スペース利用・浴衣・お茶・菓子つきの利用券(840円)」を選択しました。
道後温泉の不思議な空気
それでは、道後温泉本館の内部へ。
訪れたのは、1月上旬の夕方ごろ。障子が閉められほの暗くなった館内は、どことなく妖しげな雰囲気が漂います。
道後温泉本館がスタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』の油屋のモデルのひとつというのも納得。
入り口から湯場へは異次元の世界に通じているかのよう。不気味さとは違う、不思議な気配を感じずにはいられません。
もうもうと湯気が立ち込める神の湯の女湯は、楕円形の浴槽があるだけのシンプルな構成です。
お湯は無色透明の源泉かけ流し。なめらかで優しく、湯あたり(※3)することもありませんでした。
『千と千尋の神隠し』の浴場のように、もしかして隣に神様がいたりして……なんて想像してつい微笑んでしまいます。
お座敷の大広間は「神の湯2階席」という休憩スペースとなっています。
かの有名な温泉ということで、少しドキドキしながらもゆっくり入浴。お風呂上がりには、和風の休憩室でおいしいお茶とおせんべい。
不思議な雰囲気に包まれて、非日常を味わうことができました。
独特の雰囲気に魅せられて
日本三古湯に入浴できてお茶とお菓子もいただいて、840円でよいのだろうかと、地元の入浴料1500円の湯を思い浮かべながら恐縮する帰り道。
夕闇に暮れた道後温泉駅の駅舎が、一層ロマンのある風情でたたずんでいました。
手頃な価格とあいまって、道後温泉の不思議な魅力は人々を引き寄せ続けています。