”タヌキ”がつないだ夏の思い出 タクシー運転手へ「ありがとう」の手紙

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寧々さんがタクシー運転手に渡した手紙(小森さん提供)

 8月14日付の長崎新聞に「タヌキが怖くて帰れない」との見出しで、タヌキとみられる生き物に遭遇して怖がっていた小学4年の児童がタクシー運転手に助けを求め、家まで送り届けてもらった記事を掲載した。その1週間後、新聞を手に親切な運転手を探していた親子から“続報”が届いた。
 6月下旬の夕方、習い事から一人で帰っていた長崎市本河内4丁目の小学4年生、小森寧々さん(9)の前にタヌキとみられる生き物が数匹出現。寧々さんは怖くてその場から逃げた。家とは逆方向で帰る手段もない。日も落ち始め、途方に暮れていた時、偶然出会った運転手が事情を理解し、家まで送り届けてくれた。娘から話を聞き、母の麻美さん(39)が玄関に出た時には既に去っていた。
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 新聞掲載後、記事を見た知人から麻美さんに「○○タクシーでは?」と連絡があった。後日、親子でタクシー会社を訪問。実はそのタクシー会社側も記事を読んだ後に「自分のところの車かも」と考え、その日の勤務や走行データなどを調べていたという。だが、該当する運転手は見つからなかった。
 残念がる親子の望みをつなごうと、対応してくれた社員が「『△△タクシー』かもしれない」と言い、別の事業所に電話をかけてくれた。ただ、電話の相手は「特にそういった話は聞いてないですね。(もし該当する運転手がいても)気持ちだけで十分ですよ」。
 「見つからなかったね」。そんな会話を親子でしながら車で家に帰っていると、寧々さんがあの日あの時、助けを求めた場所に「△△タクシー」の車が1台止まっていた。
 車の速度を落としながら近づき、麻美さんは後部座席に座る寧々さんに尋ねた。「あのおじちゃん、違う?」。寧々さんは「なんか見たことあるような」。
 近くに車を止め、親子で胸を高鳴らせ、タクシーに駆け寄る。休憩中で横になっていた。開いていた窓から運転手に声を掛け、これまでの出来事を説明。麻美さんが「(あの時の運転手さんと)違いますよね?」と聞いた。すると、運転手は「私ですね」と笑顔で返してくれた。
 お礼を伝えると「いえいえ」と繰り返し、照れくさそうにする運転手。周囲も暗くなり始め、不安だったあの時、寧々さんにとって「怖そう」に映っていた運転手のおじさんは「優しい笑顔」の持ち主だった。
 「あの時は休けい中なのにタクシーにのせてくださってありがとうございました。これからもお仕事をがんばってください」。偶然の再会を果たした後、ちゃんとお礼を言いたくて、寧々さんは手紙を書き、タクシー会社に届けた。
 タヌキの出現から始まった優しさと感謝のつながり。忘れられない小学4年の夏の思い出になった。