元ボクサーの「二刀流ラーメン店主」過酷ルールの格闘技に初挑戦 リングネームは「ラーメン☆つぼ」

新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店の苦境が続く中、今月20日に4度目の緊急事態宣言が出された兵庫県では、神戸市でラーメン店を営む元プロボクサーの坪井将誉(まさたか)さん(49)が時短営業を続けつつ、29日に姫路市内で開催される格闘技イベントで過酷な特別ルールの試合に挑む。「二刀流」を地で行く店主に思いを聞いた。

JR兵庫駅から神戸駅方面へ、高架沿いを8分ほど歩くと「気合いのラーメン つぼ」というカウンター10席の店がある。店主の坪井さんは千里馬神戸ジムから1993年にプロデビュー。後に世界王者となる一門の後輩・長谷川穂積さん、西岡利晃さんのスパーリング相手も務めた。2000年4月の試合を最後にプロボクシングは引退。ライトフライ級など4階級での戦績は3勝(2KО)13敗1分けだった。その後、ラーメン修行を経て、07年に念願の店をオープン。メニューも豊富で味にも定評があり、関西のテレビ番組でも取り上げられた。

だが、昨年からのコロナ禍で経営は厳しくなった。深夜帯の来店客が多かっただけに、夜8時までの時短営業がこたえている。

「深夜3時まで営業して、その時間帯にお酒を飲むお客さんが多かったのですが、それがダメになり、売り上げ自体はかなり減った。港湾で働いている人や飲食店の人が仕事を終えて来られることが多かっただけに、つらいです。昼や夕方もお酒はダメですし。お盆も稼ぎ時だったのに、今年の夏はダメでした」

さらに、アフター・コロナへの不安もよぎる。

「夜は家で飲食するコロナ禍の生活習慣が定着し、みなさん出歩かなくなっている。コロナが収まっても、その後の方が、飲食店にとって、もっと怖い時代になると思います。協力金、補助金が出なくなり、お客さんも来ないとなると…」

そんな坪井さんにとって、心の支えが格闘技。これまで、空手やキックボクシングルールでリングに上がってきたが、29日に姫路労働会館で開催される「格闘武闘会 アクセル」の第51回大会で、4メートルの長いバンデージを拳に巻いた状態でグローブを付けずに戦う「ベアナックル・ルール」に初挑戦する。リングネームは「ラーメン☆つぼ」。打たれ強い捨て身のファイトが身上だ。

今回の特別ルールは、坪井さんがYouTubeなどで知り、「やりたい」と熱望したミャンマーの国技である格闘技「ラウェイ」を参考にして新たに作られた。立ち関節技や投げ技、ヒジ打ちのほか、頭突きも認められ、金的攻撃も故意ではなく流れの中でなら減点にならない。大会主催者で、坪井さんが所属する道場「勇誠会」代表の酒谷敏生さんは「ミャンマーのルールと違うのは、3回のラウンド制にして、判定があることです」と説明。道場では坪井さんの打撃をミットで受けている。

酒谷さんは「彼は食うためにラーメンやって、己の充実を求めて格闘技をやっている。そこら辺の見てくれだけのものでない、一瞬でも完全燃焼できるものがあるので幸せやと思う」と評し、「殴られて負傷しても、燃え尽きるまでサジを投げないタイプ。お客さんは彼が勝つ姿を見に来るのではなくて、窮地に陥っている時の表情とか人生観そのものを見に来る。今回は過去2回負けた相手と3回目の対戦。空手やキックのルールでは負けた感じがしないまま負けてきたが、今回のルールなら本人も納得できるんやないか」と期待を込めた。

来年で50歳。坪井さんには11年前に離婚し、離れて暮らす中学2年の長女がいる。「お客さんには、不器用な男が全力で戦っている姿を見て欲しい。そして、いつか娘にも父親が戦っていることを知って欲しい」。夢もある。「ラウェイの映像を見た時に『これや!』と思った。今はコロナ禍で海外に行けませんが、いつか落ち着いたら、ミャンマーに行って戦いたいという夢があります」。軍事政権が市民を虐殺しているという痛ましい現実が報じられている同国。コロナ禍の克服と共に政情の安定を願う。

早朝と昼の営業を終えた空き時間に道場で「もう一つの顔」となって特訓後、夜の営業で厨房に戻る。「ボクシングでもたくさん負けてきましたけど、このままで終われない、これで終わったらアカン人間やという思いでやってきました。頭突きの練習、やってます!」。戦うラーメン店主の日常が、そこにある。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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