知ればもっと面白い! 中国ドラマ、映画に登場する同性愛のメタファー

WOWOWで絶賛放送中のドラマ「山河令」の第5話には、温客行が周子舒の袖を切り落とすシーンが登場します。実はこれ、中国では古代から伝わる「男性同士の愛」を示すメタファーなのです。

この他にも、中国には「男性同士の愛」を表す言葉がいくつもあります。ここでは中国のドラマや映画、小説などにも登場する意味深なワード&ドキドキな隠喩を解説します。

「皇帝と私の秘密~櫃中美人~」より ©天津唐人影視股份有限公司 ©Chinese Entertainment Tianjin Ltd.

断袖(ドゥアンシウ)

「断袖(ドゥアンシウ)」の文字通りの意味は袖を断つ、つまり「袖を切り落とす」ことですが、この行為が別の意味を含むようになったのは、「漢書」の有名な故事に由来します。

漢の時代、哀帝は董賢という美青年を寵愛し、片時も離れず常に一緒に過ごしていました。昼寝から目覚めた時、哀帝は董賢が自分の袖を体の下に敷いて寝てしまっていることに気づくと、彼を起こさないように、わざわざ袖を切り落としたほどでした。

この故事から、「断袖」といえば「男性同士の愛」の隠喩となりました。

「山河令」の第5話では周子舒の袖に血がついたのを見た温客行が、自分の扇子を使って袖を切り落とします。これは、周子舒が血を嫌がっているのを見た温客行の気遣いでもあり、哀帝のエピソードを思い起こさせるところです。

「山河令」第5話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

断背(ドゥアンベイ)

ちなみに、中国では「断背(ドゥアンベイ)」という言葉も「男性同士の愛」を意味します。

文字通りの意味は「背中を折る」で、プロレスの技で相手の背中にダメージを与える「バックブリーカー(背骨折り)」を「断背」と呼んだりしますが、この隠喩はプロレスとは全く関係ありません。

アン・リー(李安)監督による男性同士のラブストーリーを描いた名作映画『ブロークバック・マウンテン(原題:Brokeback Mountain)』(05)を訳した中国語タイトルが『断背山』だからです。

世界的に大ヒットしたこの映画のタイトルがそのまま、中国では「男性同士の愛」を示す現代の新しいワードとなりました。

分桃(フェンタオ)

中国で「断袖」と同じ意味で、同様に長い歴史がある言葉に「分桃(フェンタオ)」があります。これも韓非子の「説難」に書かれた有名な故事に由来します。

弥子瑕という名の美青年が衛の国の君主の寵愛を受け、何をしても許されていました。弥子瑕から食べかけの桃をもらっても、衛君は彼が美味しい桃を全部食べずに我慢して、自分に分けてくれたと喜んだのです。ところが、弥子瑕の容貌が衰えると、衛君の寵愛は薄れ態度がガラッと変わります。桃を分けてもらった美談も、食べかけの残り物を食べさせられたと、衛君は非難するようになったのでした。

この故事は日本では「余桃の罪」と呼ばれ、君主の寵愛は気まぐれで頼みがたいという意味で知られていますが、中国では「桃を分ける」=「分桃(フェンタオ)」が「男性同士の愛」の代名詞となったのです。

龍陽君(ロンヤンジュン)

歴史人物の名前が「男性同士の愛」の代名詞となっている場合もあります。例えば、戦国時代の紀元前3世紀、魏の安釐王に寵愛された艶かしい美青年だったと伝えられる龍陽君です。

ある日、安釐王と釣りに出かけた龍陽君は、多くの魚を釣り上げますが、突然涙を流し始めます。王がその理由を尋ねると、龍陽君はこう答えます。

「最初に魚を釣り上げた時はそれだけで嬉しかったのに、より大きな魚を釣り上げたら、以前に釣り上げた魚は捨てるしかないと思いました。天下に美人は多く、私もいつか捨てられてしまうのではないでしょうか」

これを聞いた王はそんなことはないと否定し、「美人を献上しようとするものは一族皆殺しにする」とお触れを出しました。

この龍陽君は頭も賢く、安釐王の寵愛を受けて出世していった成功者として歴史に名を残しています。


今回は中国で使われる同性愛のメタファーについてご紹介しました。中国のドラマや映画、小説などに触れる際にぜひ注目してみてください。

TEXT:小酒真由子(フリーライター)

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)

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