邪道、だが傑作! イーストウッド主演『戦略大作戦』は戦争の不毛さをコメディのオブラートに包んで提示したWWII大作

『戦略大作戦』© 1970 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

「史上最高の戦争映画」第34位

ジャンルを逸脱する邪道映画でありながら、そのジャンルを代表するような映画がある。今回紹介するのは、私事で恐縮だが、生涯ベスト級の戦争映画である『戦略大作戦』(1970年)だ。

本作は正統派の戦争映画ではなく、ならず者集団が主人公であるし、当時のヒッピームーブメントを反映したハチャメチャな設定が随所に出てくる戦争アクション映画である。しかし設定が抜群に面白く、登場人物は全員キャラが立っており、何より戦争映画としてのクオリティは凡百の戦争映画とは一線を画するものとなっている。そのため、『戦略大作戦』は邪道戦争映画でありながら錚々たる作品が並ぶイギリスのテレビ局選出の「史上最高の戦争映画」で34位に選出され、今なお多くの戦争映画ファンに支持され続け、そして後続の戦争映画に多大なる影響を与えた作品である。

『戦略大作戦』ブルーレイ 2,619円(税込) 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント © 1970 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

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イーストウッドは控えめだがサヴァラスやサザーランドが大暴れ

第二次世界大戦末期、フランスの大都市ナンシーを目指して進軍を続けていたアメリカ陸軍第35歩兵師団に所属するビッグ・ジョー小隊は、ドイツ軍の情報将校ダンコフ大佐を捕虜にすることに成功。ダンコフ大佐から地方都市クレルモンの銀行に1600万ドル分のナチスの金塊が保管されていることを聞き出す。このまま最前線ですり減らされ、生き残ってもわずかな恩給しかもらえないことを知っているビッグ・ジョーの小隊は、元将校でありながら訳があって降格されられていたケリー二等兵に説得されて金塊を強奪するために最前線を突破して敵地にあるクレルモンを目指す。主計軍曹のクラップゲームや、味方が全滅したためフリーの戦車部隊となっているオッドボールら多彩な面々を加えた一行は、激戦をくぐり抜けながらクレルモンに到着するが、銀行は3台のタイガー戦車と重武装したドイツ軍部隊によって守られていた……。

『戦略大作戦』© 1970 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

当初は『マンハッタン無宿』(1968年)でタッグを組んで以来クリント・イーストウッドの盟友になっていたドン・シーゲルがメガホンをとる予定だった本作。シーゲルならばと本作への出演契約にサインしたイーストウッドだったが、『真昼の死闘』(1970年)のポストプロダクションでのトラブルのためシーゲルが離脱。後任は『荒鷲の要塞』(1968年)でもタッグを組んだブライアン・G・ハットンだったので、イーストウッドは不承不承ながら本作に出演することになったという。

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その影響もあってか、本作はイーストウッド主演作品の中でも、かなりイーストウッドの影が薄い作品だ。逆にビッグ・ジョー役のテリー・サヴァラス、オッドボール役のドナルド・サザーランド、クラップゲーム役のドン・リックルズといった面々がやりたい放題のハチャメチャな演技を繰り広げており、彼らとイーストウッドの演技のスタイルが水と油で相対的に薄まっていたというのもあったのかもしれない。ただ主人公であるイーストウッド以上に、周辺のキャラクターが輝いている映画であることは間違いない。

戦場の無常さや残酷さをコメディのオブラートに包んで提示

そしてこの映画は、登場する兵器が軍事マニアをうならせた作品である。なんといっても「戦略タイガー」と呼ばれる、T34/85の車体上部を改造したタイガーI型戦車の存在感。戦略タイガーは、『ヨーロッパの解放』(1970年ほか)に登場したT-44改造タイガーに比肩する完成度だ。この車体上部はタイガーI型戦車を再現しながらも、足回りはT-34のままという戦略タイガーのスタイルは、のちのスティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年)でも完全再現されている。

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ちなみに『プライベート・ライアン』では『戦略大作戦』のビッグ・ジョー小隊に属するスナイパーのガトコウスキーとまったく同じ、左利きでソ連製のモシンナガン狙撃銃を使うジャクソン(バリー・ペッパー)も登場。『戦略大作戦』と同様、鐘楼からドイツ軍を狙撃しまくる大活躍を見せている(※『プライベート・ライアン』には他にも多くの「戦略オマージュ」が大量に投入されており、スピルバーグの個人的嗜好が露骨に出ている)。

他にもドイツ軍のキューベルワーゲンやハーフトラック類、88㎜対空砲や20㎜対空砲まで様々なドイツ軍兵器が登場し、またアメリカ軍兵器もM4A3E8シャーマン戦車(しかも序盤の行軍シーンでは地平線の彼方まで連なる大部隊!)など多彩な兵器が登場。これはドイツ軍の鹵獲兵器とアメリカ軍からの供与兵器の両方を軍の標準装備としていたユーゴスラビアをロケ地としていたため実現できたものである。

『戦略大作戦』は、かつてあった戦争映画の痛快さや格好良さを全面的に押し出しながらも、戦場の無常さや残酷さ、そして戦争のくだらなさをコメディのオブラートに包んで提示した作品だ。第二次世界大戦を舞台にした大作映画群の、最後のあだ花でもある。そういう意味では(トーンはまったく異なるが)、マシンガンという大量殺戮兵器の登場でモラルが崩壊した世界を描く、西部劇ブームの末期に登場したサム・ペキンパー監督の『ワイルド・バンチ』(1969年)にも近しい作品とも言えるのではないだろうか。

いずれにしても『戦略大作戦』は、堅苦しいことを抜きにしても楽しめる映画であるし、逆に1970年に何故この作品が登場したかを考えるのも面白い作品なのである。百聞は一見に如かず、この奇跡の傑作映画をご覧頂きたい。

文:高橋ターヤン

『戦略大作戦』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年8月放送

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