自然と遊ぼう 森のこども園てくてく 上越の豊かな自然を次世代の子どもたちへ

 “森の幼稚園発祥の地”デンマークでの出会いをきっかけに、上越に舞台を置き森の中で保育を行う〈森のこども園 てくてく〉が開園。先駆的な取り組みを行ってきた園長の小菅さんに、“自然の中で活動”するという独自の園生活を通じて、子どもたちが成長していく姿、そして現在までの活動と未来像をお聞きしました。

「認定こども園」として新たなスタート

 〈NPO法人 緑とくらしの学校〉が運営する〈森のこども園てくてく〉は今年の春から「認定こども園」の認定を得て、新たな一歩を踏み出しました。子どもたちは自然や地域と触れ合いながら、学びと遊びの毎日を楽しんでいます。

 昨年度までは「森のようちえん」の名称で活動。あまり聞き慣れない「森のようちえん」という言葉ですが、ルーツはヨーロッパにあります。森をはじめ、野山、川、海などさまざまな自然の中での体験を通じて子育てや保育、乳児、幼少期教育を行うことの総称で、北欧やドイツ、カナダ、韓国などで盛んに行われており、公立で運営されている国もあります。

 子どもたちは土や葉っぱ、花など、自然の中にあるものを使って遊びます。こども園の園長で〈NPO法人緑とくらしの学校〉理事長の小菅江美さんは「木の枝は人形にも、魔法の杖にも、鉄砲にもなる。想像力を育んでくれるんです」と話しています。森の中を歩き、たくさんの植物や動物に出会うことで自然の変化に気付くことも大切にしています。

 また、暮らしのために必要なことを身につけるのも「森のようちえん」の役割の一つ。その中で、森が肌寒く、暖を取るためにたき火をする活動をしました。火をおこすだけでなく、薪や火口(ほくち)にする杉の葉なども自分たちで用意します。もちろん一人だけではできません。子どもたちがそれぞれの役割を担い、力を合わせて進めます。「仕事のような遊び」を通じて、誰もが役割を持っていることや、“ありがとうの心”を学んでいくことができるのです。

〈てくてく〉の活動の様子。「子どもたちが森にある物を使って弓矢などを手作りして遊んだり、葉っぱや草花を何かに見立てたり。常に何かを生み出しています。」

開園のきっかけと森に園舎を構えるまで

 小菅さんがデンマークでの視察を経て、上越で〈森のようちえんてくてく〉を始めたのは2004年。当時の日本に「森のようちえん」は数えるほどしかなく、全国に先駆けた存在でした。そこからの10年で大きく広がり、現在は県内で上越を含め5園が常設で活動をしています。「全国の仲間とつながりあって、保育を深めていく」と小菅さん。柏崎市で活動している「森のようちえん」は、〈てくてく〉の元スタッフが運営の中心を担っているそうです。

 中心となる活動場所は金谷山のふもと、大貫平山地区にある森ですが、幼稚園と保育園を兼ね備えた「認定こども園」として、下正善寺に園舎があります。〈旧下正善寺保育園〉の園舎でしたが、地元から「使ってほしい」との声が上がり、2015年に購入。活動拠点「下正善寺のおうち」として使っていましたが、「認定こども園」として発足するにあたり、2020年に大改修をしました。

 園舎内のテーブルや棚などは大貫の森の木を材料にしています。間伐や製材の様子を子どもたちが見学。製作にも子どもたちが関わりました。木が切り倒されたときの振動や、断面に見える年輪が、子どもたちの心を動かします。また、玄関横にあるかまどは親子ワークショップで作成。園庭の土とワラを材料に使いました。「手を使うと心が動く。心が動くことが、一番の学びの始まり」と小菅さん。

〈てくてく〉を支え続ける地域の力

 15年を越える活動は、人や地域との強いつながりを生み出しました。春祭りや竹灯ろうなど地元のイベントに園として積極的に参加。日々の活動でも、園の周りの田んぼであいさつを交わしたり、しめ縄作りの先生役に招いたり。園そのものが地域の住民として定着しています。現在、園では13人のスタッフが勤務していますが、常勤スタッフは全員が移住者。関東や近畿、東北など全国さまざまな場所から上越へとやってきましたが、仕事以外でも地域活動に参加する人がいるなど、地域との結びつきをさらに強めています。

 保護者の一人は「大人も一緒に、みんなで子育てを楽しめるところが好き。〝まかせている〟ではなく〝一緒に育てている〟」と園の魅力を話していました。当番制の「1日サポーター」を導入しており、保護者の誰かが日常的に参観を兼ねて園活動に参加しています。保護者それぞれが「みんなのお父さん、お母さん」になり、園全体が大きな家族になっていきます。保護者間のコミュニケーションも自然と活発になり、移住してきた家族が地域になじむ助けにもなっています。

 小菅さんは「自然、文化、人。上越の魅力が“まるごと”詰まっている」と話します。3年間の園生活で、子どもたちは将来、地元で活躍しても、世界に羽ばたいても、心の根っこに上越がある「上越人」。地元ならではの暮らしを楽しみながら、新しい上越を作っていくことが、〈森のこども園 てくてく〉の大きな目標になっています。

園長 小菅 江美(こすげ・えみ)さん
1971年上越市安塚区生まれ。特定非営利活動法人「緑とくらしの学校」理事長を務める。環境教育事務所Lifetime主宰。野外幼児教育を全国に広めたいと講演・執筆活動も行う。

◆園情報
認定こども園 森のこども園 てくてく
住所:上越市大字下正善寺527

・問い合わせ先
NPO法人 緑とくらしの学校
住所:上越市滝寺251
電話:025-523-5166

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