【MLB】大谷翔平を支える重さ6.9グラムの“秘密兵器” 最新鋭機器「パルス」の正体は?

エンゼルス・大谷翔平【写真:Getty Images】

ドライブラインベースボールが買収しmotusBASEBALL専用アプリケーションが「パルススロー(PULSEthrow)」へ名称変更

国を越え、時を越えた存在となっているエンゼルスの大谷翔平投手。今シーズン二刀流として完全復活できた要因のひとつに、右肘へかかる負荷の管理を細かくしたことにある。それは、重さ7グラムにも満たない「パルススロー(以下、パルス)」と呼ばれる精密機器。黒のバンドを巻いている大谷の姿を見たファンも多いのではないだろうか。その“正体”に迫る。【間 淳】

2018年10月に右肘を手術した大谷は今シーズン、本格的な二刀流復活を遂げた。その活躍を支えているのが、長さ3.8センチ、幅2.5センチ、高さ1センチの四角い機器。重さは、わずか6.9グラムだ。身長193センチ、体重95キロと大柄な大谷に欠かせない小さな秘密兵器なのだ。

このバンドの中に入っているのが秘密兵器の「パルス」。肘にかかる負荷を数値化している。米国のモータス社が開発したものだが、昨年1月にシアトルを拠点にデータ解析をする野球トレーニング施設「ドライブラインベースボール」が買収し、motusBASEBALL専用アプリケーションから「パルス」に変更した。この施設ではメジャーリーガーや、日本のプロ野球選手もトレーニングしている。

肘にかかる負荷を数値化し、練習強度の参考にできる

パルスの使い方は簡単だ。身長や体重、年齢などをアプリに入力し、バンドをつけて投球。すると、センサーが測った数値がアプリに表示される。腕を振るスピードや球をリリースする角度、そして肘にかかる負荷が「見える化」される。商品を扱うオンサイドワールドのゼネラルマネジャー八木一成さんは「パフォーマンスを上げるだけではなく、パフォーマンスを出し続ける体をつくってほしい」と語る。

普段から練習で身に付けることでデータが蓄積されていく。投球練習だけはなく、キャッチボールや守備練習でも肘には疲労がたまる。その状態を数字で把握しておけば、けがを未然に防ぐことができる。「モータス」から「パルス」への変更に伴い、新たな機能も加わった。

その1つが、1日の推奨投球トレーニング量の数値化だ。選手によって違う1球ごとの負荷に対応し、その日の投球トレーニングで、どのくらいの投球量や強度がベストなのかが示される。投球トレーニング量が多すぎれば肘の故障につながり、少なすぎれば鍛えられない。八木さんは「客観的な数字をもとに、けがをせず肘の強度を上げるギリギリのラインで練習できる」と説明する。

肘に負担がかかりにくい投球フォームを知ることも可能

この数値を確認しながら練習することで自主トレからシーズンインや、けがからの復帰といった中・長期の計画を立てる際は、休みを入れながら段階的に強度を上げていくことができる。肘の強度を構築できたフェーズでは、それを落とさず維持できるように、体の仕上がりや状態に合わせて最適な投球トレーニング量をフィードバックしてくれる。

1球1球リリースの角度と肘への負荷が数字で分かるため、肘に負担がかかりにくい投球フォームを知ることができる。また、全ての投球のうち、強度の高い投球の割合も表示される。この数字を活かせば、翌日の練習はブルペンよりも強度の低い遠投を増やすなど、最適なトレーニングメニューを組むことが可能となる。自主トレからシーズンインや、けがからの復帰といった中・長期の計画を立てる際は、休みを入れながら段階的に強度を上げていく。

データを分析する八木さんが強調することがある。「投球フォームが悪いから肘に負担がかかってけがをするわけではなく、どんなフォームでも負担はかかる。疲労がたまっているのに、無理をした結果けがをすると考えられる。負荷のかかりにくいフォームを完成させても、肘に蓄積された負荷量を見なければけがをしてしまう」。けがを防ぐには疲労度を把握して、練習の量と質を考える必要があると説く。

大谷は今シーズン、登板間隔や球数を緻密に管理しながら二刀流で活躍している。その背景には球団や監督らの理解がある。けがの予防はスタートライン。パルスの目的は大谷のように高いパフォーマンスの維持にある。

【動画】重さ7グラムの精密機器 大谷がキャンプで付けていた実際映像(5枚目)

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(間淳 / Jun Aida)

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