東京と地方、それぞれで存在感 BRTをカガクする JR東日本の気仙沼・大船渡線BRTのメリットは? 東京BRTの乗車ルポも【コラム】

気仙沼線・大船渡線BRT。バスは地元のバス事業者に運行委託しますが、車体には「JRマーク」が表示されます(写真:鉄道チャンネル編集部)

最近、鉄道や交通系ニュースで良く見掛ける新しい交通手段に「BRT」があります。バス・ラピッド・トランジットの頭文字で、日本語では「バス高速輸送システム」と訳されます。専門的には、「専用道を走る、速達性や定時性に優れたバス車両による公共交通システム」と定義されますが、語源が「レール・ラピッド・トランジット=都市高速鉄道」と知ると、鉄道との共通性が見えてきます。

BRTが知名度を上げたきっかけは、JR東日本が2011年の東日本大震災で被災した、宮城・岩手県の気仙沼線と大船渡線をBRTで復旧させたからで、2020年には鉄道を廃止してBRTに完全移行しました。ここでは、土木学会が2021年7月にオンライン開催した鉄道工学シンポジウムでのJR東日本の発表を基に、BRTを再検証。東京都心と臨海部を結ぶ、「東京BRT」の乗車ルポもお届けします。

BRTで新しい交通まちづくりに踏み出す

「鉄道を現状復帰すべきか、それともBRTで新しい交通まちづくりを目指すか」――。震災後しばらくの間、議論された点です。「元々鉄道があった地域なので、鉄道を復活させてほしい」も十分に理解できるところで、BRT復旧に説得力を持たせるには、「鉄道よりBRTが便利」なことを、沿線自治体や住民に理解してもらわなければなりません。

JRがBRTで運行するのは、気仙沼線柳津―気仙沼間(55.3キロ)と大船渡線気仙沼―盛間(43.7キロ)。一般には「利用客が少ないので、バスで復旧した方が経費節減できる」と思われがちで、それも一理ありますが、BRTには鉄道にないメリットもあります。

気仙沼・大船渡線BRTの路線図。一部に一般道を走る区間もありますが、多くは専用道を走行します(画像:JR東日本)

まず、安全・安心。BRTは線路以外も自走でき、万一の災害時、鉄道に比べ降車による避難が容易です。JR東日本はBRT運行開始に際し、避難ルートを検討し、マニュアルも整備。避難訓練も実施した結果、2012年12月と2016年11月の地震で津波警報や注意報が発令された際は、10分程度で避難完了しました。

JRが自社でBRTを運行する

沿線自治体には「BRT転換すると、そのままJRが撤退してしまうのでは」の不安もありました。JR東日本は、「JRがバス専用道を確保し、責任を持って輸送サービスを継続します」「JRがバス事業の許可を受け、簡単に撤退できないようにします」と約束しました。振り返れば国鉄時代末期、国鉄は多くの地方交通線をバス転換しましたが、その際は代行バスを地元に任せたため、一部自治体には「JRはBRTをやめてしまう」の懸念があったのです。

JRの考え方に沿線自治体も共感し、気仙沼線は2012年末までにBRTでの本運行に移行。大船渡線も、震災から2年を経過した2013年3月にBRT運行が始まりました。

BRTのメリットとして、まちづくりに合わせて柔軟にルート変更できる点が挙げられます。気仙沼線BRTの志津川駅は、「南三陸さんさん商店街」に開設。2017年3月、商店街が仮設店舗から本店舗に移転すると駅も移設され、観光客の来店を便利にしました。

運行本数は大幅増

専用道を走る気仙沼・大船渡線BRT。単線の線路は当たり前ですが、バスも〝単線〟というのがポイントです(画像:「鉄道工学シンポジウム」の発表から)

JR東日本はBRT運行に当たり、ダイヤ改正して運転本数を大幅に増やしました。鉄道時代、気仙沼線本吉―気仙沼間だけが1日22本(平日の上下計)で、ほかの区間は1日19本でしたが、BRTは本吉―気仙沼間は3倍近い1日65本に増発。他区間も29~53本に増やしました。

定時性に関しては、JR東日本がシンポで実証データを示しました。震災前、気仙沼線柳津―気仙沼間は鉄道で1時間30分掛かっていました。震災後の振替バスは2時間で、所要は30分伸びましたが、専用道を走るBRTは1時間40分に短縮。鉄道に比べ10分伸びたものの、ほぼ同等の定時性を維持します。

時に遅れはあるものの、9割以上は5分以内。生活交通や高校生の通学手段として、十分な機能を維持します。

JR東日本の資料に一般駅舎(BRT駅)の紹介があったので、転載しましょう。

十分な設備を持つ一般駅舎=大船渡線小友駅=(画像:「鉄道工学シンポジウム」の発表から)

鉄道とバスが接続する柳津、気仙沼、盛の3駅では、ホームの片側に鉄道、反対側にバスを着けて、階段などの上下移動なしで相互に乗り継げます。

山田線は鉄道で復旧し三鉄に移管

ここまでBRTのメリットを紹介しましたが、もちろん「鉄道がなくなる」ことに抵抗感を持つ沿線自治体もあります。三陸鉄道(三鉄)の南リアス線と北リアス線に挟まれたJR山田線。地元は、鉄道復旧を前提としたまちづくりを進めていることなどを理由にBRT復旧に難色を示し、JRは自社で鉄道を復旧させ三鉄に移管する手法で、2019年3月に運行再開しました。

JR東日本はこれらを総合して、大規模自然災害時の対応として「地元のまちづくり計画に対応できる点、輸送サービスを向上できる点などで、鉄道よりBRTが有効なケースもある。復旧したBRTの利用状況は今後も検証が必要で、JR東日本は、気仙沼・大船渡線BRTの経験を蓄積したい」と結論付けました。

JR九州は日田彦山線をBRTで復旧

気仙沼・大船渡線BRTでは、2018年度から自動運転バスを実証実験。2021年初には、JR東日本による大型自動運転バス製作のニュースも発信されました。自動運転バスは「レベル3(条件付き自動運転)」相当とし、運転手がハンドルから手を離した状態での最高時速60キロ運転を目指します。

JR東日本以外では、JR九州が2017年7月の豪雨で被災した福岡・大分県の日田彦山線をBRTで復旧します。計画によると、添田―彦山間(約7.7キロ)と宝珠山―夜明間(約7.4キロ)は一般道を利用。中間の彦山―宝珠山間(約14.1キロ)は線路跡に専用道を整備する方針で、2023年度の完成を目指します。

東京BRTに乗る

東京BRTのバスはレインボーカラーに塗装されています(筆者撮影)

BRTは地方だけではありません。東京にもBRTがあります。2020年10月1日に運行を始めた、その名も「東京BRT」。東京都港区の虎ノ門ヒルズと中央区の晴海BRTターミナルの間約5キロを、30分足らずで結びます。

途中の停留所は新橋と勝どきBRTの2カ所だけ。目的地が晴海と聞いてピンときた方もいらっしゃるでしょうが、東京オリンピック・パラリンピック大会関係者のために設定されました。運行主体は京成バスと子会社の東京BRT。京成は千葉市の幕張メッセやZOZOマリンスタジアムの観客輸送で、2車体連結した連節バスの運行実績を持ちます。

停留所は4つだけ。虎ノ門ヒルズと新橋以外で鉄道の接続はない代わり、速達性が確保されます(筆者撮影)
車体には「京成グループ」のロゴマーク(筆者撮影)

2021年8月12日、連節バス乗車を目的に虎ノ門ヒルズに出向いたのですが、やってきたのは一般の路線バス。ドライバーの話では、連節バスでヒルズに来るのは始発の1本だけで、後は道路状況を考慮して、新橋発着だそうです。運行開始当初は物珍しさで多くの乗客が殺到したようですが、オリンピック後のこの時期、乗客は5人だけ。終点の晴海まで行ったのは私1人で、後は全員が勝どきBRTで降車しました。

現時点では五輪関係者の移動手段、オリパラ後に期待

気仙沼・大船渡線BRTは、専用道走行が目玉になっていますが、東京BRTにも港区と中央区の境界付近、ほんの1キロ足らずの区間だけ専用道を走ります。

停留所も、立派な〝駅仕様〟の気仙沼・大船渡BRTとは差があります。虎ノ門ヒルズは1階の車寄せからバスが発着しますが、ベンチはなし。終点の晴海は広大な駐車場の一角に造られたバスターミナルに到着しますが、ここにも何もありません。

晴海BRTターミナルは高層ビル群の真ん中にあります(筆者撮影)

考えれば、東京BRTはあくまでオリパラ関係者輸送が目的。晴海BRTのはす向かいのビルには、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が入居します。帰路は同じバスで帰っても良かったのですが、200メートルほど歩いて都バスに乗車しました。

以上のように、東京BRTは現時点ではまだ生まれたて。しかし、オリパラ後も東京BRTは運行を継続。ダイヤ改正も予定されているようで、実力発揮にはもう少々の時間が必要なのかもしれません。

いずれにしても、東京のど真ん中と東北の地方都市で、同じ輸送システムが成り立つのはバスだから。鉄道では考えにくいことです。気仙沼・大船渡BRTや東京BRTがどのように成長するのか、見守りたいと思います。

文/写真:上里夏生

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