君は花田十輝さんを知っているか

アニメ脚本家の実像に迫る(前編)

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 アニメは日本の宝である。とはいえ評価が定まった名作を除けば、生み出され続ける作品は玉石混交。手探りで「玉」をよりすぐるのは手間がかかる。そこでこう問おう。君は脚本家、花田十輝(じゅっき)を知っているか―。

 1969年東京生まれ、仙台市育ち。祖父は作家安部公房の盟友で、大江健三郎や芸術家岡本太郎に影響を与えた前衛作家の花田清輝。父は理学者で東北大金属材料研究所助教授授を務めた花田黎門(れいもん)。デビューから30年、第一線で活躍を続け、最新作はNHK・Eテレで放送中の「ラブライブ!スーパースター!!」。話題作を多く手掛けながら、ほとんど取材を受けないこの人物の実像に、インタビューで迫った。(共同通信=川村敦、敬称略)

花田十輝がシリーズ構成を務める「ラブライブ!スーパースター‼」(ⓒ2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター‼)より

 ▽キャラにうそをつかない

 ―アニメ脚本家を志したきっかけは。

 僕が小さかった時、アニメがすごくいい時代でした。宮崎駿さんの「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」とか、富野由悠季(とみの・よしゆき)さんの「機動戦士ガンダム」「伝説巨神イデオン」とか、押井守さんの「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」とかが一世を風靡(ふうび)していた頃で、アニメが子どものものを離れて作品として評価され始めていた。これにすごい可能性を感じたんです。アニメを仕事にしたいなと思っていたんですが、僕は絵が描けない。だから脚本家しかないかなって(笑)

 ―どのように仕事を始められたのでしょう。

 大学生の時に、僕の師匠に当たる小山高生が「アニメシナリオハウス」という教室を開いていたんです。シナリオ雑誌に広告が出ていて、受講したのがそもそもの始まりでした。

 ―すぐにデビューできましたか。

 1本だけ書かせてもらって、その後は鳴かず飛ばずでした…。全然芽が出ないうちに、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったライトノベル作家あかほりさとるさんの事務所が「人が足りなくて探している」ってことで、行ってこいと言われた。そこで企画書を書いたりしながら社会勉強させてもらいました。礼儀やあいさつ、打ち合わせでの心構えなど、あかほりさんには随分教わりました。そして仕事をさせてもらううちにチャンスがあって、今に至ります。だから偶然ですよ、すべて。

 ―目標はありましたか。

 最初は、師匠に「世界名作劇場」を書けるようなライターになりたい、と答えているはずです。当時は「トム・ソーヤーの冒険」とか「愛の若草物語」の宮崎晃さんのシナリオが好きでした。トム・ソーヤーに出てくるハックルベリーには、たとえ子供でも人間にはそれぞれ自分なりの価値観や正義があって、それが違うから面白いんだ、と子供ながらに学んだ気がします。他にも高畑勲さんの「赤毛のアン」とか、今見直してもすごいなと思います。あれほどキャラクターにうそをつかないってことができるんだろうかって思うぐらい、キャラクターと向き合っている。この子はこういう経験をしてこういう価値観を持ってるから、こういう行動をとる。そこに間違いなく人間がいる。本当はああいうふうに書けないといけないんだよねと思う。自分なんかまだまだ、お話の都合で動かしちゃっていると思う瞬間が多いです。

 

 ▽キャラの目線になる

 ―アニメの脚本家とはどんな仕事でしょうか。

 よく「映画は監督のもの、舞台演劇は役者のもの、テレビドラマは脚本家のもの」って言うと思うんですが、それで言えば、アニメは監督と制作スタジオのものなんだろうと思っています。ファンの方も作品を監督かスタジオの名前で覚えていることが多いと思うんです。新海誠監督作品とか、制作京都アニメーションとか。アニメの中心にあるのはあくまで絵なんですよ。だから作品をつくる時も大抵の場合、最初に出てくるのは監督がイメージしている画面であったり、キャラクターデザインの方が描いた絵とか、簡単な企画書だったりする。脚本家はそれを見て、監督やスタッフがイメージしているものを誰にでも分かるように文字にしていく。原作ものでも「こんな曲が流れている」とか、「こんな色だ」とか、原作者の方や監督は何らかのイメージを持っているので、話を聞きながら、作品をどう捉えているかをつかんで「つまりテーマを言葉にするとこういうこと?」とか「だとしたら、最終回はここがいいのでは」とか、自分の考察を入れつつ文章にして全員が客観的に見られるようにする。よくシナリオは作品の設計図と言いますが、まさにそんな感じです。こーんなでっかい船作りたいんだけど、作れるかどうかちょっと展開図書いてみてくれない?と言われて描いてみる。そんな仕事です。展開図があれば「どうやらこのまま作ると沈みそうだ」などと見ながら確認して、実作業に入る前に修正できますから。なので締め切りを守るのは重要です。設計図が遅れたら全ての工程が遅れるので。

 ―思い出深い作品は。

 放送順は前後しているのですが、最初にシリーズ構成させていただいた「ぷちぷり*ユーシィ」でしょうか。まだまだ駆け出しの下手くそで、シナリオライターが何なのかも分かってなかったのに、よくシリーズ構成をやらせてもらえたなと思いますね。たぶん当時の演出家さんは、シナリオの駄目な部分を相当修正しながらコンテを切られていたと思います。最後の方なんか、納得いかないので書き直します、なんて生意気なこと言っても自由にやらせてくれて。あの作品には本当に感謝しています。それから何十年もたって「宇宙よりも遠い場所」を書く時に、あの頃のように好きに書いてみよう、と開き直れたのも、あの時の経験が生きていたのかもなと思いました。

花田十輝がシリーズ構成を手掛けたアニメを基に制作されたゲーム「STEINS;GATE ELITE」

 ―制作中に意識していることは何でしょう。

 ありすぎて絞れませんが…簡単なところで言うと、朝起きて午前中に仕事をすることです。寝起きすぐが一番頭が働くので。ただ、これは理想で、駄目な時はどうしようもなくなってから夜中に書いてます…。あとは客観と主観のバランスというか、比率ですね。物語の構成やプロット(あらすじ)を書くのは、自分が神様みたいな客観的な視点でキャラクターの運命を決める作業。逆に、シナリオは肉声を書くので、キャラクターになりきって主観的に目の前にあるものに対してどう思うか、何を言うかを考える作業。その差は意識するようにしています。例えば「STEINS;GATE」みたいに情報や伏線を沢山処理したい作品の時は、客観的な方に軸足を置いて、面白い会話が書けてもストーリーに関係のない所は削りますし、逆に「ラブライブ!」みたいに物語よりエモーションに重きを置きたい作品の時は、いい台詞(せりふ)や会話が書けたら、ストーリーの方を変えて台詞を生かす。どちらに軸足を置くか、どのくらいの比率でいくか、原作や監督の方針に合わせて変えるようにしています。

 ―その上で時間内に収められるのはすごい。

 うまくいってないです(笑)。そう見えているとしたら監督を含めた、みんなの力です。結局、大事なのはキャラクターだと思うんですよ。今言ったように、自分がキャラクターになりきれないと書けない。なので原作ものでもストーリーで理解できない部分は、何度でも質問して理解することはしますが、キャラクターが理解できない時は、すぐに執筆を断るようにしています。そのキャラクターになれないなと感じたら書けないので。ただ、時々、お任せしますので好きに書いてください、と言われる時があって、これは難しいですね。悩んでもしょうがないので、この子はこんな子だと思う、こうだったらこの子になりきれる、と自分なりに捉えて書きますけど、そうすると視聴者から、この子はこんな子じゃない、とかお叱りの声が飛んできたりしてね。何度やっても難しいです。後編に続くhttps://www.47news.jp/47reporters/6738948.html