<書評>『絵葉書から分析する近世城郭の建築と空間』 貴重資料としての絵はがき

 令和の世に姿を現すであろう、首里城正殿をはじめとする周辺の建物であるが、復元の際には近世期の文献史料や絵画資料、そして近代の写真資料が基礎資料となる。これらのうち、戦前に撮影された首里城の写真は絵葉書として、衆目に触れられてきた。絵葉書は安価な土産物としてではなく、後世においては失われた首里城の姿を偲ぶ上で貴重な資料としての価値が付与されている。
 戦災によって失われた文化財の中で、絵葉書にてその姿を留めているものは数多くある。それらは主に建物復元時の資料として活用されてきたと同時に、最も多くの人に流布していた重要資料であると言える。今日、SNSなどで訪れた観光地をアップしたり、デジタル画像で保存するなどして、旅の思い出として記録していくことが一般的になっている。一方で、土産物としての絵葉書は次第に姿を消している現状がある。しかし再度、絵葉書の意味を考えると失われた文化財の姿を後世に伝えてきたことの意義はとても大きい。それは無形のデータが主流となっている今において、形あるものにして残す意義を考えていく上で一つの「気づき」を我々に与えてくれる。
 本書では日本全国64カ所の近世城郭を絵葉書から読み解き、その実態について迫っており、現在復元されている城郭建物やかつて存在していた城郭の施設について詳述している。戦後に復元された多くの近世城郭がどの程度の精度で復元されたのか、本書を見ると一目瞭然である。また、絵葉書に見るかつての姿は城郭が機能していた時期の姿、そしてその機能が停止した後の姿を如実に写しており、様々な事象を経て現在に至っていることも読み取ることができる。
 このように本書は読み進めていくと単なる絵葉書が文化財としての価値へと引き上げられていく、不思議な感覚に誘われる良書である。
 (山本正昭・沖縄県立博物館・美術館主任学芸員)
 たかだ・とおる 1965年名古屋市生まれ。城郭史料研究会、城館史料学会など所属。主な著作(共著)に「図解 近畿の城郭」Ⅰ~Ⅴ、「織豊系城郭とは何か」「近世城郭の謎を解く」など。

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