【夏の甲子園】3度目V智弁和歌山を成長させた「イチローの言葉」と「ライバルの存在」

最後の打者を空振り三振に仕留めた中西はナインとタッチ。歓喜の輪をくることなくすぐに整列した

第103回全国高校野球選手権大会(甲子園)は29日に決勝が行われ、智弁和歌山(和歌山)が智弁学園(奈良)を9―2で破り、21年ぶり3度目の優勝を飾った。

4回途中から好救援を見せたエース・中西(3年)は最後の打者を空振り三振に仕留めると、ほんの少しだけ拳を握った。「堂々としておこうと思ったんですが、うれしすぎて喜びがこぼれてしまいました」。試合後、申し訳なそうに苦笑いを浮かべた右腕。智弁和歌山ナインはマウンドに集まり歓喜の輪をつくることなく、すぐに整列して一礼した。世の中が昨春から直面するコロナ禍。野球ができる感謝と2年ぶりの選手権開催の意義を考え、選手たち自身で決めたことだった。

大きな注目を集めた決勝戦での「智弁対決」。1997年夏制覇の時の正捕手だった中谷仁監督(42)は「夢のような幸せな時間でした」と、喜びをかみ締めた。甲子園最多68勝を誇った前任の高嶋仁氏(75)から引き継いだ伝統を踏襲。「勝利への執念に尽きる」という恩師の教えを初回の攻撃で体現した。「(相手は)強打の智弁学園。打ち勝たないと優勝はないと覚悟を決めていった」。5安打を集めて4得点。犠打を使わず畳みかけ、一気に流れに乗った。

新チーム結成後、2つの刺激があった。まずは昨年末、縁あって指導を受けたイチロー氏との出会いだ。シンプルな考えと基本の重要性を再認識。ライバルと差のつくプロの走塁を伝授された。レジェンドが発した言葉をスポンジのように吸収。心技体の土台となった。

もう一つは〝宿敵〟の存在だ。「市立和歌山の小園君、松川君というライバルの存在を頭に入れて練習してきた。多少いい投手が来ても何とかなるというのはあったと思います」(中谷監督)。和歌山を制する上で避けては通れなかった壁が、最速152キロ右腕・小園とそれをリードする松川だった。ともにプロが熱視線を送る世代最強バッテリーを攻略して、チームは自信をつけた。

「選手が努力した結果。本当に成長してくれた。最後、マウンドに集まるのは球児の憧れなんですが、それを我慢した彼らは本当に尊敬できる」。強いだけじゃない――。目を細める中谷監督の言葉には充実感がにじんだ。

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