【夏の甲子園】決勝戦であったもう一つの “ファインプレー” 球児を鼓舞し続けた審判員

決勝戦で三塁塁審を務めた山口智久さん

第103回全国高校野球選手権大会(甲子園)は29日、智弁和歌山(和歌山)の優勝で幕を閉じた。決勝で実現した智弁学園(奈良)との「智弁対決」。大きな注目を集めた試合は、心身ともに鍛えられた両軍選手の好プレーと礼節を重んじる姿が、結果以上にクローズアップされた。

2年ぶりの選手権は無観客で開催され、多くの高校野球ファンがテレビ画面越しに見守った。決勝戦、爽やかな風を吹かせたのは選手だけではなかった。

攻守交代のたびに、球場中に響き渡る声があった。「さあ守備からだ! 頑張れっ!」。ひと際よく通る声の主は、三塁塁審を務めた山口智久さんだった。名門対決は初回に4点を先取した智弁和歌山が最後まで主導権を握る形で進行。最終スコアは9―2だったが、点差を感じさせない実に引き締まった好ゲームだった。

「頑張れっ! 頑張れっ! 最後まで頑張れっ!」。追いかける展開の智弁学園ナインに向けられた言葉だった。左翼に向かう前川、遊撃のポジションに就く岡島…すれ違いざま、拳をつくって、一人ひとりに丁寧に正対して声をかけ続けた。5回終了後、グラウンド整備が終わるのを見届けると、一塁側ベンチと三塁側ベンチに顔を向けて「さあ締めていくぞ!」と声を掛け、自らも三塁方向へ駆け出した山口審判員。毎イニング、山口さんの方を向いて、帽子のツバを触って会釈する選手たちの笑顔が印象的だった。

社会人野球最高峰の「都市対抗野球」も担当し、20年のキャリアを誇る。2016年にはアマチュア野球審判員で初の「国際審判員」の資格を取得した山口さん。雨に悩まされた今大会は降雨コールドゲームとなった大阪桐蔭(大阪)―東海大菅生(西東京)戦をジャッジし、難しい判断を迫られたことで話題にもなった。

引き締まった今大会最後のゲーム。無観客開催となった甲子園で、テレビ画面越しには伝わり切れない〝ファインプレー〟の一つだった。

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