【特別寄稿】ヘソ賞球数の考察(WEB版)/鈴木政博 鈴木政博の遊技産業考現学

ヘソ賞球3個が一般的だったぱちんこ遊技機で、近年1個や2個の遊技機が多数発売されている。今回は、ぱちんこ機のヘソ賞球の現状と方向性について考察してみたい。

1. ヘソ賞球の多様化
ヘソ賞球が変化するきっかけとなったのは2019年だ。3月20日に日工組内規が変更され、5月1日からの型式試験持ち込みが可能となった。それまでヘソ賞球は「4個以上」とされていたが、これが撤廃された。同時に「ベース30以上」や、また「その他入賞口個数」についても3個以上から1個以上に変更されている。これらベースにかかわる部分が緩和されたのは、それより1年前の遊技機規則改正で「短時間出玉率の下限33.3%」が規定されたことにより、その基準に適合しさえすれば自然とベース部分は一定の確保がなされる事から、その形態については問わない、という理由からだろう。

規則の「短時間出玉率の下限33.3%」については、厳密には「ベース」ではなく「大当たり出玉」「電サポによる出玉」などの払い出しも含まれる。しかし短時間試験は「10時間試験のうち、どの一時間を見ても」というものであり、甘デジならともかくミドルやライトミドルであれば「一時間大当たりしない」ことは頻繁に起こる。結果として適合させるためには、それに近いベースを確保することになる。

内規変更後から当分の間は、それでも「ヘソ賞球3個」が主流だった。「ヘソ賞球1個」が続々と登場し出したのは、昨年2020年から。ご承知の通り「遊タイム」の搭載が可能となり、各社から続々と新機種が発売された。しかし今までの性能より遊タイム搭載分が甘くなる部分について、遊技機を活用しやすくするために「ヘソ賞球1個」が採用され始めた。

2. ベースについて
まずはベースについて考えた場合、本来であれば「ベースは低ければ低い方が良い」のは間違いないだろう。遊技者としても、例えば同じ「250玉で20回まわる台」を打つ場合で考えると「玉持ちは良いが3分半かけて20回まわる台」よりも「玉持ちは悪いが2分半で20回まわる台」の方が時間効率が良い。またホールとしても「玉持ちは悪いが2分半で20回まわる台」の方が同じ営業時間内でも台売上が上がりやすい。

ただし「遊技機規則」で「短時間出玉率の下限33.3%」がある以上、一定のベースが確保された新機種しか発売されないことも確かだ。同一ベースであれば、ヘソ賞球が1個であれ3個であれ、性能にはほとんど差はない。あるとすれば「回りムラ」のスランプについてだろう。例えばヘソにしか賞球がなくヘソのみでベースを確保する場合、たまたま千円でヘソにたくさん入った時に、たくさん払い出しがなされるため、その払い出された分でまた回すことができる。よって「千円でたくさん回る時」と「千円であまり回らない時」が発生しやすくなる。この点では「ヘソ賞球1個」で「その他入賞口でベース確保」する台の方が、回りムラのスランプは抑えやすい。

それでは現在「ヘソ賞球1個」と「ヘソ賞球3個」のどちらが良いか、議論が分かれているのはどんな点だろうか。
3. ヘソ賞球の違いについて
現状、聞かれる声をまとめてみたい。ホールからの意見としては「1個賞球が良い」という理由として「活用するための整備がしやすい」「3個賞球より回しやすい」といった声や、「粗利を確保しやすい」という声が多い。また逆に「1個賞球は良くない」という理由では「整備するときが面倒」という声が意外と多かった。これは、「ヘソ3個賞球」であれば「一分間スタートのみ見て整備できる」のに対し、「ヘソ1個賞球」だと「一分間スタートに加えベースや250玉スタートなどを見比べて整備する必要がある」というものだ。

またファンからは「3個賞球が良い」という意見の方が多い。裏を返せば「1個賞球は良くない」という意見が多く、理由は「全然回らない」という意見が圧倒的だ。ファンとしては「全然まわらないぞ」→「ヘソが1個だからか」と感じる場面が多いようだ。

私が個人的に感じることとしても、店によっては「スタートは分5回くらいあるが、その他にほとんど入らない」ケースを見かけることは多い。この場合、ヘソ1個賞球だと250玉あたりにすれば良くて14~15回程度しか回らない。「その他入賞口」に入らない状態で分スタート値で整備すると、粗利は確保できるが遊技者からは「回らない」という印象になる。こうした整備の状況が「1個賞球は良くない」という意見に繋がっていると考えられる。

4. ヘソ賞球とベース
それでは、ヘソ賞球とベース、その他入賞口の関係はどのようなものか。まずは下の表をご覧いただきたい。

これは「ヘソ以外、その他入賞口に入らなかった場合」における一分間スタートと250玉あたりスタートを比較したものだ。遊技機にもよるが、仮にスタート5.4回の整備で営業する場合、ヘソ賞球3個であれば250玉16回以上を確保できるが、ヘソ賞球1個だと14回ちょっとになる。やはりヘソ賞球1個の場合、その他入賞口への入賞がほとんどない整備であれば、一分間スタートを上げるなど「回らない」という印象をファンに抱かせない注意は必要だろう。

次に、仮に「250玉あたり16回」のスタートにしたい場合、一分間スタートとベースはどのような関係になるか。次の表をご覧いただきたい。

250玉で16回まわしたい場合、ヘソ賞球1個では一分間スタートを6.0まで上げることができる。逆に2個賞球なら5.6回、3個賞球になると5.3回までしか回せないことになる。これは当然のことながら、ヘソ3個賞球でスタート5.4にした場合、その他入賞口に全く入らないとしても250玉あたりスタートは16.1回と16.0を超えてしまうためだ。

前述したように「その他入賞口にほとんど入らない」整備にもかかわらず「一分間スタート値のみで整備している」のか、もしくは粗利確保重視なのかはわからないが、個人的にも「1個賞球は回らない」という印象を抱かせる状況のホールは時折見かける。しかしヘソ賞球1個なら「250玉あたり16回でも一分間スタートは6.0まで上げられる」のも確かだ。

ヘソ賞球がどのような評価に落ち着くかは今後を注視したいが、ファンのネガティブな感情をなるべく減らして新規ファンが増える方向へむかうことを願う。

(以上)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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