石木ダム 対話難しく 長崎県と住民、条件譲らず あす期限

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本体建設予定地近くで座り込みを続ける住民ら=27日、川棚町

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、県が水没予定地に暮らす反対住民13世帯に示した中村法道知事との対話の期限が31日に迫る。県、住民両者ともに対話の条件を譲る気配はなく、実現しない可能性が高まっている。県は「9月以降は着実に事業を進める」と通告しており、先行きの不透明感が増している。
 「事業の白紙撤回が対話の条件ではない」。昨年11月の本紙インタビューに反対住民の岩下和雄さん(74)がこう答えたのを受け、県は一昨年9月以来の対話に向け本腰を入れ始めた。担当者は住民の真意を確認しようと、住民らが連日抗議を続ける座り込み現場を訪れた。だが新型コロナウイルスの感染拡大で住民からは訪問を拒む声も聞かれ、今年1月下旬を最後に訪問はいったん途絶えた。
 ただ県が対話に向けた動きを止めざるを得なかった理由は他にもあった。昨年10月、最高裁はダムの必要性を一定認める判断を下した。佐世保市の朝長則男市長は今年3月の定例会見で対話について「ダムの必要性の話は基本的に終わっていると(知事は)理解されているんじゃないか」と述べ、必要性を住民に訴えたい県側との認識のずれが露呈した。同市は住民が対話の条件に挙げた「工事の中断」に踏み切ると、再開できない恐れがあるとして懸念を強めていた。
 県は市との考え方の擦り合わせに時間を要し、ようやく調整が済んだ後の5月下旬、住民側に対話の条件について文書で事前協議を持ち掛けた。だが住民側が工事の即時中断を求めるのに対し、県は本体工事着手は見合わせていると主張し、関連工事も対話当日限りの中断を提案。これまでに計9回文書をやり取りしたが、長年の相互不信の根は深く、折り合えないままだ。
 中村知事は7月末の定例会見で「地域の安全・安心を確保する上で極めて重要な事業。いつまでも工事を見合わせるわけにはいかない」と述べた。予定している2025年度の完成を見据えると、長期の工事中断は既に困難とみられ、県は「9月以降は着実に事業を進める」方針だ。
 これに対し住民の間では失望感が広がっている。岩下さんは「結局、いろいろ難癖をつけたりして、話し合いができないようにしている。言っていることとやっていることが一致しとらん」と突き放す。岩永正さん(69)は今月中旬の大雨でも川棚川はあふれなかったとして「本当にこのまま強引に事業をやるつもりなんだろうか」と不安を打ち明ける。
 中村知事は来年3月1日までの任期中に家屋などを強制撤去できる行政代執行について「方向性を出したい」としているが、あと半年しか残されていない。県と住民は互いに9月以降も対話の窓口は閉じないとしているが、中村知事はそう遠くない時期に難しい判断を迫られそうだ。