イノシシの死骸、なぜ行政は撤去しない?「自宅近く、においがひどいのに」

男性宅のベランダから見えるイノシシの死骸。山の所有者が分からず、行政に撤去してもらえないという(京都市北区)

 「家の近くにイノシシの死骸があり、臭いがひどいが行政に撤去してもらえない」と、京都市北区の男性(57)から困惑した声が京都新聞社に寄せられた。市や府に取材すると、所有者の分からない私有地に動物の死骸がある場合、すぐには撤去が難しいという制度上の限界が浮き彫りになった。

 男性によると、同区原谷地区にある自宅南側に流れる水路をはさんだ山裾に、6日午前10時ごろ、体長80センチほどのイノシシが死んでいるのをベランダから発見した。「朝から腐ったような臭いがしていた」と話す。

 撤去してもらおうと、市生活環境美化センター(南区)に連絡すると、午後1時ごろ、担当者が調査に訪れた。橋から10数メートル下の地点にある死骸を、路上から確認していたという。

 約1時間後、センターから電話があり、「私有地なので撤去できない。山の所有者を探して撤去してもらってほしい。あるいは、所有者と相談して道路脇まで出してくれたら市が撤去する」と言われたという。男性は「所有者を探せとか、死骸を移動させてとか言われても、個人では到底無理」と戸惑う。

 どういうことなのか。市によると、道路や河川など行政が管理する場所であれば市が撤去するが、私有地の場合、無断で入ると不法侵入にあたる。そのため、所有者が分からないと、登記を確認し、電話や手紙で連絡を取る必要があり、時間がかかるケースが多い。

 所有者と連絡が取れたとしても、公道まで移動させてもらうのが一般的で、今回のように簡単に動かせない場合は、専門業者を紹介するなどして対応してもらうという。市は「男性の気持ちは分かるが、法的には限界がある」と話す。撤去は、かなりハードルが高そうだ。

 一方、府京都林務事務所は、イノシシや豚に感染する豚熱の予防面から、「死因が分からない野生イノシシを発見したら連絡を」と呼びかけている。これに従い、男性が事務所に連絡すると、「腐敗が進んでいて感染確認のための血液が採取できず、動かせない」と言われたという。

 同事務所は取材に対し、「血液を採取した場合は、死骸を原則その場に埋設するという決まりがあるが、採取できないと権限がない」と説明する。その上で、「男性にはしばらく窓を閉めて生活してもらい、分解を待ってもらうしかない」と結論付けた。

 法律のはざまで打つ手が見いだせない死骸の撤去。「結局、臭いを我慢するしかないのでしょうか」と男性はため息をついた。

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