栄養格差の根本原因はなにか ドールなど日本・米国・ブランジル・インドで調査

Brooke Lark

食の分野でのイノベーションを通して社会課題の解決を目指すイタリア・ボローニャ発のNGOフューチャー・フード・インスティチュートは、ドール・サンシャイン・カンパニーと共同で、世界の栄養面での格差や栄養素ギャップ(健康な食事に必要な栄養素と実際に消費している栄養素の差)を調べた白書「ニュートリション・アンパック(Nutrition Unpacked)」を発表した。3カ月にわたる調査は、定量的データと研究者、実践者、そして世界各地のコミュニティからの知見を組み合わせ、栄養格差の根本的な原因と実行可能な解決策を見つけることを目的に行われた。(翻訳=梅原洋陽)

日本を含め世界15カ国以上にネットワークを持ち、さまざまな企業や団体と連携してきたフューチャー・フード・インスティチュート(Future Food Institute:FFI)。FFIは今回、さまざまなステークホルダーをテーブルに集めた。ブラジル、インド、ジンバブエ、米国、ポーランド、日本(Future Food Kyobashi Living Lab)の6カ国で、障壁や格差、解決策を話し合い、ディナーを共にする食事会を開催したのだ。教育者や農家、科学者、料理人、食品技術者、政策立案者、栄養士、消費者らが、食事を共にしながら、栄養面での格差や考えうる解決策についてそれぞれの考えや認識を話し合った。

FFI創設者のサラ・ロベルシ氏は「白書のテーマ『すべての人に栄養を』は、複雑な食料システムの中であっても、すべてのステークホルダーにとって有益で適切な手段を見つけるという共通の責任があることを示しています。この目標を達成するために、ドールだけでなく、志を同じくする世界中の人や組織と共に栄養失調や食の不平等の本質的な原因を探っています。定量的な研究と、草の根レベルの検証を組み合わせることで、効果的な政策立案と社会全体にインパクトを与える機会につながる根本的要因を見つけられると考えています」と言う。

栄養素ギャップは「健康な食事に必要な栄養素と実際に消費している栄養素の差」と定義される。このギャップ(差)は、食料の入手が不可能、価格が高い、アクセスが悪い、そして食料の選択によって引き起こされる。FAO(国連食糧農業機関)によると、8億2000万人以上の人々が十分な食事をとれておらず、世界の3人に1人が栄養失調の影響を受けており、栄養失調は世界の疾病の最大要因となっている。

今年の2月に、ドールは年間200万ドル(約2億2000万円)の「サンシャイン・フォー・オール(Sunshine for All:すべての人に太陽を、の意味)」基金を設立した。基金は、世界中の食料の入手のしやすさ、アクセスのしやすさ、そして受け入れやすさ(栄養価の高い食料と知り、受け入れられるかどうか)、廃棄に関する問題に対処することを目指している。これは同社が掲げる2025年までに世界の栄養を改善するという公約の一環であり、FFIとのパートナーシップは幅広い取り組みの中でも重要なものだ。

「私たちは、良好な栄養状態というのは太陽のようであるべきだと考えています」と話すのはドール代表のピエール・ルイジ・シジスモンディ氏だ。「性別や人種、社会経済的地位に関わらずに、全ての人が享受できるものであるべきです。この調査を通して『栄養ギャップ』について知ることで、新たな知見を発見し、持続可能な解決策を共に作り出す上で不可欠な、現地の詳細な情報を知ることができます。栄養ギャップを埋めるには、異なる人口グループ間の栄養状態の違いを知るだけでなく、不平等な分配を生んでいる食料のエコシステムと一連の過程を知ることが大切です」と言う。

今回の新たな調査では、FFIとドールが調査し研究していく4つの重点領域を紹介している。

・社会的な栄養状態:食生活(食料の入手と消費)とより広い社会的パターン(性別、文化、宗教、経済、政治など)との関係性を調査し、なぜ私たちが現在の食生活をしているのかを探る。

・食の世代間ギャップ:消費者の行動を形成する価値観や嗜好、信念、習慣、欲求、そして、サステナビリティや味覚、廃棄、伝統といったテーマの世代間の違いや考え方を知る。

・隠れた飢餓:これは食料の質が必要な栄養素を満たしていない場合に起きる。主な原因は、天然資源の不足や汚染、栄養価の高い食料へのアクセスの不足、単一農作物の大量生産、栄養価、フードロス、そしてライフスタイルの変化などとされている。

・食のエコシステム(生態系):すべての人の栄養状態を保証するには、栄養不足の解消だけでは十分ではない。サステナビリティ、食料のバリューチェーン、コミュニティ、そしてインフラを検討しながら、食料エコシステムを再定義する必要がある。

白書は、食育のみならず、真に栄養のある健康的な食べ物についての適切な知識・理解(フードリテラシー)に基づいた「フードコミュニケーション」が重要だと指摘。フードリテラシーには伝統食材や規格外の青果への理解なども含まれる。栄養価の低い食品を健康的に見せるマーケティングなどに惑わされることなく、栄養を適切に摂取できる食材を選ぶことを推奨する。また共に食事をする楽しさ、共に食事をとる行為なども適切な栄養摂取に必要なフードコミュニケーションであり、摂食障害の解決にもフードコミュニケーションは有効だという。良質なフードコミュニケーションは食料システムの再生(リジェネレーション)にもつながるとしている。白書ではこの他にも調査を通じて分かった発見や、世界で行われている解決策が紹介されている。

シジスモンディ氏は「すべての人に栄養を届けるには、多くの人が一緒になって、食のエコシステムを完全に再構築する必要があります。地元の農家の人々の生活を犠牲にせず、そして地球の限界を超えずに、どうやってこれを達成するのか、という問いに毎日向き合っています」と話す。

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