知的障害のある人が手掛けた絵画を定額制(サブスクリプション)でマンション居住者に届けるサービスが川崎市内で始まった。同市幸区の生活介護事業所が支援するアーティストが制作、梱包(こんぽう)、配送を手掛ける全国的にも珍しい取り組み。事業所の関係者は「アーティストの評価と自立につながってほしい」と期待を寄せる。
「新しい作品を持ってきました」
今月20日、絵画を手に同市中原区のタワーマンションに、NPO法人「studio FLAT(スタジオフラット)」理事長の大平暁さん(50)と施設利用者でアーティストの大槻蒼波(あおば)さん(22)の姿があった。
2人は、大槻さんが描いた花の絵を住人に渡し、帰り際に「良かったね」と目を合わせた。
「パラアート サブスク」と名付けられたこのサービスは、同市幸区で知的障害があるアーティストを支える「スタジオフラット」と、このマンションを分譲した三井不動産レジデンシャル(東京都)が考案した。
同社が居住者に行った調査によると、「好きなアーティストの絵画を自宅に飾りたい」との声が聞かれた一方、「アーティストと出会う機会がない」「どこで購入できるか分からない」との意見があった。
同社市場開発部の村上由梨子さん(34)が要望に応えようと検討を進める中、昨年12月に発行された県の広報紙に目が留まった。特集で紹介されていた同スタジオで活躍するアーティストの作品に魅了された村上さんは、「障害のあるアーティストを応援するきっかけになれば」と新規事業をスタートさせた。
月額3千円で、毎月作品がランダムに届く。気に入った作品を購入できる上、月1回まで別作品に交換できる。作品は縦横45センチ、壁に画びょうを刺せば掲げられ、家庭で楽しめるよう工夫を凝らした。現在は2世帯が契約し、「玄関に飾りたい」「すてきな色合いで部屋が華やかになる」との感想が寄せられているという。
同スタジオではアーティスト16人が活動。開放感あるスペースでアクリル絵の具や色鉛筆などを使い、ユーモラスなロボットや丸みを帯びた車、幻想的なデザインなどの絵を描く。
多摩美術大を卒業後、幸区の障害者通所施設で絵画講師を10年以上務めた大平さんは、2020年1月に「フラット」を開いた。大平さんが事業所名を「フラット(平ら、起伏のない)」にしたのは、「絵に『障害者アート』というジャンルはない。障害に関係なく評価されなければならない」との願いからだ。
新型コロナウイルス感染拡大により活動が制限されていたため、大平さんは「展示も開けず、原画を見てもらう機会は減っていたのでありがたい」と感謝する。「このサービスが『川崎スタイル』として広まり、アーティストたちの評価と、経済的な自立につながってほしい」と願う。