ひさびさ再開のトラックヘッド戦は“幻の3勝目”も絡む選手権首位交代劇に/ETRC第4戦

 6月12~13日にハンガリーで開幕して以来、長らくの“中断”となっていた2021年のETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップの第4戦、実質的なラウンド2が8月28~29日にチェコ共和国のアウトドローモ・モストで開催され、その開幕の地ハンガリー出身でこの週末にはランキング3位で乗り込んでいたノルベルト・キス(レーヴェス・レーシング/マン)が、難しい天候が絡みながら初日ポールポジション獲得から“幻の勝利”を除く週末4戦2勝を挙げ、選手権首位に浮上している。

 本来ならイタリア・ミサノで5月に開幕を迎える計画だった2021年のETRCは、カレンダー改訂を経て6月のハンガロリンクで予定より1ヒート減の3レースを争いスタートを切った。そして7月中旬にはトラックの“聖地”ことドイツ・ニュルブルクリンクで、2週連続バック・トゥ・バックでの第2戦と第3戦の開催が予定されていた。

 しかし、その会期を前に隣国ベルギーなどを含めたニュル一帯は、集中豪雨により未曾有の洪水被害に見舞われてしまう。FIAや地元主催者と協議の末、急きょイベント開催をキャンセルしたETRCは「消防士と救助隊員は、非常に困難な状況で素晴らしい仕事をしていた」とのロルフ・ウェルナー(ETRCマネージングディレクター)の言葉どおり、前例のない状況に対する迅速な支援活動を開始。

 災害救助に当たるレスキューの後方支援や、深刻な打撃を受けた現地ラインラント・プファルツ州の地域住民らに対する大規模な物資輸送などのサポートを実行。このETRCのシリーズ関係者には平常時より物流業務に従事するメンバーも多いことから、スクランブル体制での対応が可能となった。

 そんな痛みを抱えつつ迎えた後半戦は、ここから7週間で5ラウンドの開催を予定する超過密日程となり、10月の最終戦はイタリア・ミサノでの“リベンジ”開催でシリーズチャンピオンが決定する、劇的なフィナーレが計画されている。

 そのシリーズ再開戦に集った全17台のトレーラーヘッドたちは金曜午後からのフリープラクティスに臨むと、明けた土曜午前の公式予選はドライトラックでのセッション開始に。

 するとまずは、シリーズ6冠を誇る“帝王”ヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)と、開幕勝者のポイントリーダー、サッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/マン)を差し置き、ハンガリーの英雄キスが最速タイムでトップ10シュートアウト形式のスーパーポール進出を決めてみせる。

 しかし10台のマシンがピットレーンに並んだ瞬間に上空から雨粒が落ち始め、トラック上はすぐさまウエット状態へ。アタックに向かった複数のヘッドたちはコースを外れ、ターン13で発生したアクシデントにより赤旗中断となる。

 コース修復作業を経てセッションが再開されると、トラックたちは『コース半周がドライ、残り半周がフルウエット』というトリッキーな状況に追い込まれ、この悪条件をなんとか乗り越えたキスがポールポジションを獲得。結果的に2番手ハーン、3番手にレンツというQ1セッションと変わりない顔ぶれが並ぶ上位グリッドとなった。

約2カ月半の”中断”を挟んで、チェコ共和国のアウトドローモ・モストには多くのトレーラーファンが詰め掛けた
レース2では終盤まで粘りに粘って、正当な勝利を手にしたアンドレ・クルシム(Don’t Touch Racing/IVECO)
週末は勝利こそなかったものの、チェコ出身の元王者は2位、3位と2度の表彰台で地元を沸かせた

■オーバーテイクショーの末の連勝と思われたが……

「15年間レースを戦っているが、これほど大きなコントラストのサーキットで戦ったことはないね。ミドルセクターはとても濡れていて、赤旗が出た瞬間には自分も芝の上だった(笑)。再開後もコースの反対側は完全にドライだったし、これほど困難な状況で最速タイムを記録できてうれしいよ」と、前戦地元開幕の日曜には2ヒート連勝を飾っているキス。

 約2カ月半越しの勢いを持続したキスは、土曜午後に雨量過多による“オープニング・イエロー”で開始されたレース1でも視界良好の優位性を保ってポール・トゥ・ウインを達成すると、さらにトップ10リバース採用のレース2でも怒涛の追い上げを披露。

 ドイツ出身のシュテフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)や、フランス出身のアンソニー・ヤニエック(ライオン・トラック・レーシング/マン)らを次々と仕留めると、首位争いを繰り広げるアンドレ・クルシム(ドント・タッチ・レーシング/イベコ)、テオ・カルヴェ(バギラ・レーシング/フレイトライナー)の編隊に迫っていく。

 ラップ数の消費を抑えるため手早く2番手カルヴェをパスし、首位クルシムに迫ったキスだったが、残り2周の時点でドアを閉め徹底したディフェンスラインで抵抗するドント・タッチ・レーシングのイベコに対し、接触上等の激しいドライビングで応戦し、トレーラーヘッドをきしませながら首位浮上に成功。これで連勝かと思われたキスだったが、チェッカー後の審議で追い抜き際のヒットに「10秒加算ペナルティ」が言い渡され3位に後退。失意のまま初日を終えることとなった。

 明けた日曜もレース3に向けたウエットの予選で勝負が再開すると、意外にもこれが今季初ポールとなった帝王ハーンに対し、午後に始まった週末3度目のレースでキスが躍進。フロントロウ2番手から「前日の借りを返す」とばかりにターン2で首位を奪うと、そのまま独走体制に持ち込んで2位浮上の2017年王者アダム・ラッコ(バギラ・レーシング/フレイトライナー)に対し21秒ものマージンを築いてチェッカー。一方、最後の表彰台となる3位にはハーンを攻略したレンツが入り、ポイントで逆転された勝者キスとの差を最小限に留める力走を見せた。

 そして、ふたたびリバースグリッド採用の週末最終ヒートでは、そのレンツが6番手発進から意地の奮闘で毎ラップのオーバーテイクを披露。アントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/マン)や復帰組のシェーン・ブレルトン(TORトラック・レーシング/マン)らをパスして今季2勝目を挙げ、このレースで5位に終わったキスに対し3点差のランキング2位で喰い下がる結果となった。

 続くETRCの2021年シーズン第5戦、実質的“ラウンド3”は約2週間後の9月11~12日に、ベルギーのゾルダー・サーキットでの1戦が予定されている。

レース3では”帝王”ヨッヘン・ハーン(Team Hahn Racing/IVECO)をスタートで仕留めたノルベルト・キス(Révész Racing/MAN)が週末2勝目
ハンガリーの英雄キスは、週末の結果で選手権ポイントを84点とし、逆転でシリーズリーダーの座に立った
レース4で気を吐いたサッシャ・レンツ(SL Trucksport 30/MAN)が、ダメージを最小限に留める勝利を飾っている

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