武田双雲の日本文化入門〜第5回 文房四宝のひとつ、書道紙の魅力

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

本連載では、双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

【連載第5回】書道で使われる紙の特徴

書道には、「文房四宝」と呼ばれる特に重要な道具があります。これは、「」「」「」「」の4つを指します。

今回は、このうち「紙」についてご紹介したいと思います。

もし真っ黒な線で文字を書くだけだったら、コピー用紙とマジックで事足りるでしょう。しかし、書道では、文字の「カスレ」や「滲み」を重視します。

そして、そうした立体感のある歪な形を生み出せるよう、水分をたっぷり含んだ墨汁に加え、特殊な紙を使うのです。

書道で使う紙は、日本で一般的に「和紙」と呼ばれる紙と少し異なっています。特に高級な書道紙は、とても繊細に作られているので、そっと優しく書かなければなりません。力を入れるとすぐに破れてしまいます。

筆に墨汁をつけすぎると、書いた文字が滲みすぎて読めなくなります。他方で、墨汁の量が足りないと、カスレすぎてしまいます。この調整は、とても繊細な作業です。

なんでもかんでもスピードと効率を重視する時代において、優しさと繊細さをもって、あえて儚い紙に書く。このような行為は、心をとても穏やかにしてくれます。紙が繊細に作られているおかげで、私たちは丁寧な所作を身に付けることができるのです。

さて、書道紙は、どんな素材で、どのように作られているのでしょうか。

書道紙は、紙漉き職人さんの手で作られています。原料は「コウゾ」や「ミツマタ」という木の皮を使用しています。木の皮の繊維を、時間をかけてほぐし、綺麗な水を使って、丁寧に漉いていきます。この作業にはきれいな水がたくさん必要なため、紙を作る工房は水が豊富な山の麓付近にあります。

僕も、手漉きで書道紙を何度も作らせてもらっていますが、紙漉きは実に繊細な作業です。すぐに破れたりムラができたりして、本当に難しい。職人さんの洗練された技に感動します。

繊維の絶妙なバランスを感じながら作られた紙は、書いた時の感触が違いますし、墨の色まで変わります。一流の職人さんがこだわった紙は、見た目も美しく惚れ惚れします。触り心地もとてもよいです。

ミクロの視点で見ると、筆が紙に触れた瞬間、墨の粒子が水の分子と結合して、書道紙の繊維の中に一気に浸透していくわけですが、書道紙は、その滲みの広がり方までこだわって作られています。

日本ならではのすばらしい伝統技術には、本当に感動します。書き始めの一画目の筆を入れる心地よさが、僕が40年以上も飽きず書道を続けられている理由のひとつです。

次回は、墨や筆や硯についても語っていきます。お楽しみに!

今回の書~「文房四宝」

書道家にとって文房四宝(筆、墨、硯、紙の4種)は宝物です。日頃の感謝の気持ちをこめて、いつもよりさらに道具に感謝しながら書かせていただきました。

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