<金口木舌>諦めない心

 「まとも」とは正面から向き合うとの意味だが、後方を艫(とも)と言う船の世界では違っている。真後ろから吹く風が「真艫(まとも)」。追い風だから、正しい方向にきちんと進めるということではある

▼向かい風でも帆船やヨットは帆を用いて進む。揚力を使い、逆風を突く知恵である。陸でも急勾配に大カーブ、山あり谷ありの難所を進まなければならないことがある

▼陸上競技の「トラック種目」は競技場内の競走路を用いて行われる。100メートル走以外はコーナーを走ることになる。曲走路を駆け抜ける技術はパラ陸上ではより重要だ

▼レーサーと呼ばれる競技用車いすの扱いも巧みに上与那原寛和選手が東京パラで躍動した。いずれのレースも絶妙のコーナーワークで3位争いに競り勝った。想定外の展開にも勇気を持って対応し、力を存分に発揮した

▼実力を最も発揮できる体のピークを出番の3本のレースに合わせなければならない。大会が1年延期となり、並々ならぬ節制と鍛錬の日々だったことだろう。決して順風続きとはいえない中を走りきっての銅メダルは、困難にも諦めない強い意志を示した

▼レース後、日本勢での表彰台独占を目指したいと語った。3年後の夢の実現に向け、もう新たな航海へとこぎ出したようだ。多様性を認め合うパラスポーツの魅力をこれからも発信し、私たちの心を揺さぶり続けるだろう。

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