AIが「キミヲマモル」 いじめ・虐待の深刻度を予測

自治体で導入進む

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虐待の状況を入力するタブレット端末

 人工知能(AI)を活用し、いじめや虐待の被害から子どもたちを守ろうとする取り組みが各地で進んでいる。AIが過去に起きた事案の大量のデータを分析し深刻度を予測、被害が大きくなる前に早期に手を差し伸べる。これまで届かなかった子どもたちの声や、気づくことができなかった苦しみにAIが寄り添う。(共同通信=沢野林太郎)

 ▽共通点

 「深刻度75%」。パソコンにデータを入れるとAIが瞬時に将来のリスクを評価した。

 大津市教育委員会は、AIによるいじめ予測分析システムを試験的に導入している。小学1年の女の子がいじめにあったこの事例は「友達に無視された」と一見よくある形態だったが、市教委は深刻化のリスクが高いとして「丁寧に対応した方がいい」と判断した。

 深刻度が高いケースには(1)先生の目が届かない場所や時間に発生(2)会員制交流サイト(SNS)でのいじめ(3)加害者が男女混在―などがある。市教委の担当者は「通常、問題ないと見過ごしてしまう事案でも客観的に判断し気付くことができる」と話す。

 大津市は2011年、中学2年の男子生徒がいじめを苦に自ら命を絶った事件の反省から、日立システムズ(東京)とシステムを開発し、試験運用している。大津市内で認知された過去約5千件のいじめ報告書のデータをAIが分析。いじめが起きた時間や場所、相手、報告者など約50に上る項目を入力すると、自動的にいじめが深刻化するリスクをパーセントで表示する。70%以上の場合は早期に手厚い対応が必要となる。

「いじめ予測分析システム」を運用する大津市教育委員会の担当者=2020年9月

 以前は大津市内の学校からメールで集めた月に数百件のいじめ報告書を、教育委員会の職員が一つ一つ確認していたため対応が遅れるケースがあった。システムは瞬時にリスクを発見し、経験が浅い先生にも適切な対応を促すことができる。

 教育行政に詳しい兵庫教育大の日渡円(ひわたし・まどか)特別教授は「いじめの傾向には共通点がある。教諭1人の経験だけに頼らず、データに基づいて客観的に兆候を見逃さないためにも有益だ」と話している。

 ▽人間の仕事とは

 「頭部顔面腹部に傷あざがある リスクは67%」「児童自身が保護を訴える リスクは99%」

 三重県と産業技術総合研究所(茨城県つくば市)は、被害者の年齢や性別、傷の場所、重傷度、加害者の属性、虐待期間など17項目をタブレット端末に入力すると、子どもを保護する必要性や虐待の再発可能性を「総合リスク」という数値で表すシステムを開発した。

 三重県が過去6年間に対応した児童虐待事例約6千件のデータをAIで分析。頭に傷があると虐待が再発する恐れが高く、一時保護した方が再び虐待を受ける可能性は低くなるという。三重県では2012年に虐待で子どもが亡くなる事件があり、悲劇を繰り返さないためシステム開発を進めた。

 虐待の連絡があると職員がタブレットを持って家庭を訪問。聞き取った内容やけがをした部分を絵や写真で入力する。表示された総合リスクも参考にして対応を判断する。産総研の高岡昂太さんは「情報をすぐに共有でき、判断をサポートしてくれる」と指摘した。

AIを活用した虐待対応システムのデモ画面(AiCAN提供)

 広島県は行政が持つデータをAIで分析し、児童虐待や不登校が起こる可能性がある子育て家庭を予測する取り組みを同県府中町で検討している。虐待などの発生確率を予測するシステムを構築し、リスクが高そうな家庭を手厚く支援、問題発生を未然に防ぐのが狙いだ。これまで問題が起きてから対応していたが、先手を打って家庭訪問などの対策を考える。

 児童虐待問題に詳しい愛育研究所の山本恒雄客員研究員は「職員が虐待を受けている子どもやその家庭ときちんとコミュニケーションを取り、信頼関係を構築することが大切だ。丁寧に説明して解決につなげることは人間がする仕事だ。AIの力を借りながらトレーニングを積み重ねていかなければならない」と話している。