球団史上初の偉業達成へ 西武・栗山巧の“生え抜き2000安打”が持つ意義とは

西武・栗山巧【写真:荒川祐史】

2001年ドラフト4位で入団、2019年に球団史上最多安打を更新

西武・栗山巧外野手の通算2000安打達成の瞬間が間近に迫りつつある。苦しい時期もチームを支え続けたライオンズ一筋20年目のチームリーダーが金字塔に到達する瞬間を、多くのファンは待ちわびていることだろう。

栗山は2019年に球団史上最多安打を更新したが、それまでの記録保持者だった石毛宏典氏がライオンズ在籍時に記録した安打数は1806本。ライオンズの生え抜きとして2000安打を達成した選手は、60年以上の球団史において1人も存在しなかった。

今回は、栗山がこれまでに残してきた数字や功績を紹介するとともに、チーム内における存在の大きさについて改めて記していきたい。(成績は8月29日終了時点)

栗山は育英高校から2001年のドラフト4巡目でライオンズに入団した。1軍で台頭を始めたのは4年目の2005年からで、2008年に自身初の規定打席に到達。キャリアハイの打率.317を記録するとともに、当時の同僚である片岡易之氏と同数で最多安打のタイトルを手にし、2番打者としてリーグ優勝と日本一に貢献した。その勢いのまま主力の座へと定着すると、翌年以降も外野の一角を務め、不動のレギュラーとして大活躍を見せていく。

2008年、2010年、2011年とレギュラー定着からの4年間でベストナインを3度、2010年にはゴールデングラブ賞も受賞し、走攻守の3拍子が揃ったリーグ屈指の外野手へと成長。2008年以降は9年間で8度130試合以上に出場するなど怪我への強さも兼ね備え、常に一定以上の数字が計算できる存在としてチームを支えてきた。

加えて、通算出塁率.369と優れた選球眼を備え、通算100を超える犠打を記録するなど、フォア・ザ・チームを体現する数字も残している。30代中盤に差し掛かった2017年以降はやや成績を落としていたが、2018年と2019年はいずれも終盤戦に貴重な働きを見せてリーグ連覇に貢献し、2020年には9年ぶり4度目のベストナイン(指名打者としては初受賞)に選出されるなど、ベテランになってからも存在感を示し続けている。

ライオンズからFAで移籍した選手【表:PLM】

2016年オフにFA権を行使して西武に残留、“チーム愛”を示した

ライオンズの生え抜きで2000安打を達成する選手は、栗山が初めてとなる見通し。一方で、ライオンズでキャリアをスタートさせた後に、他球団で2000安打を達成した選手は秋山幸二氏、清原和博氏、和田一浩氏、松井稼頭央氏の4人がいる。他球団からの移籍を経てライオンズの一員として2000安打を達成した選手も江藤慎一氏、土井正博氏、山崎裕之氏がいる。

これまで生え抜きでの2000安打達成者がいなかった理由としては、FA、米球界挑戦、トレードといった理由で、ライオンズを離れる選手が少なくなかったことが挙げられる。NPBで1993年にFA制度が導入されて以降、FAでライオンズから他球団に移籍した野手は数多く、1994年オフにダイエー(現ソフトバンク)に移籍した石毛氏から、2019年オフに米大リーグのレッズへ移籍した秋山翔吾外野手まで11人いる。

他にも秋山幸二氏は1993年オフの大型トレードでダイエーに移籍。投手として通算224勝を挙げた工藤公康氏もFAで他球団に移籍した後に名球会入りの瞬間を迎えている。

それでも西武は2018年、2019年のリーグ連覇を含め、2010年からの11年で8度Aクラスに入っている。主力の流出に直面しても新たな戦力が台頭し、チーム力を大きく落とさなかったという伝統はあるが、退団が相次ぐことは球団にとっても痛手となる。

そんななかで、栗山は2016年にFA権を行使した上でその日のうちに残留を発表。「これからも埼玉西武ライオンズでプレーしたいという意思が、今回のFA宣言と残留を決めたことになりました」とコメントを残し、自らの行動をもってチーム愛を示した。

さらに栗山と同学年で、同じく2001年のドラフトで西武に入団した中村剛也内野手は2018年オフにFA権を行使し、即日残留を宣言。栗山と中村という“重鎮”が残留を選択したことは、後輩たちの考えにも影響を与えているかもしれない。

具体例を挙げると、2019年に十亀剣投手、2020年に増田達至投手がそれぞれFA権を行使した上で残留を選択している。生え抜きとして西武を支え続ける栗山の2000安打という大記録は、ライオンズに残り生え抜きとして活躍し続ける意義を示すものにもなるだろう。

チャリティ活動にも積極的、2014年に「ゴールデンスピリット賞」受賞

栗山は小学5年時に阪神大震災を経験したことから、チャリティ活動にも積極的だ。東日本大震災の被災地支援や、小児がんと闘病する子どもたちへの支援に加え、オフシーズンには少年野球大会の「栗山巧杯」を主催し、野球の裾野拡大に取り組んでいる。そうした活動が認められ、2014年には社会貢献活動に熱心な野球関係者に贈られる「ゴールデンスピリット賞」に、球団史上初めて選出されている。

また、西武の公式ホームページに掲載されている、栗山の2000安打達成記念特設サイトの「ONE ROAD」にも人格を示すエピソードがいくつも紹介されている。グラウンド内外で気配りを見せ、プレーでも長年にわたってフォア・ザ・チームを体現し続ける栗山の懐は深く、そして広い。

今季の西武は8月30日時点でリーグ5位と、やや苦しい戦いを強いられている。しかし、愛斗外野手、岸潤一郎外野手、山田遥楓内野手ら若手や、呉念庭内野手、川越誠司外野手といった中堅が台頭しており、チームの新陳代謝は徐々に進みつつある。

こうした選手たちが近未来の主力に成長し、栗山のようにチームを長く支え続けてくれる存在となれば、再び上昇気流へと乗っていけるはずだ。その身をもってチーム愛を示し、数々の球団記録を打ち立ててきた生え抜きのベテランが果たす役割はこれまでも、そしてこれからも変わらず大きなものであり続けることだろう。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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