SDGs50年先取り 【県北隠れ名所名物もっと知り隊】旭化成「ベンリーゼ」(延岡市旭町)

ベンリーゼで作られた美容フェースマスク(旭化成提供)

 旭化成が延岡市旭町のベンベルグ工場で製造する不織布「ベンリーゼ」が、海中で微生物により分解される性質を高水準で満たしているとして国際機関の認証を受けた。ベンリーゼは約50年前の1974(昭和49)年から世界で唯一、延岡市で製造され続けている「メード・イン・延岡」の製品。持続可能な開発目標(SDGs)を先取りした自然由来の機能と性質が、改めて注目されている。
 ベンリーゼを詳しく知るため、同社ベンベルグ事業部の前田栄作部長(53)からレクチャーを受けた。ベンリーゼはベンベルグと同じ化学繊維の一つ。その中でもナイロンやポリエステルなど石油を原料とする合成繊維とは別の、植物由来の再生繊維に位置付けられる。
 使うのはワタの種を包む短い産毛「コットンリンター」で、綿実油を種から搾る際の副産物。そのままでは綿糸に使えないコットンリンターを銅アンモニア溶液と混ぜ合わせて生み出す繊維はキュプラと呼ばれる。キュプラを生産するメーカーは世界でも旭化成だけで、同社の登録商標が「ベンベルグ」だ。
 ベンベルグの原料液をノズルから糸状に押し出して規則的に重ね合わせると、繊維は接着剤なしで自己接着しシート状になる。この独自技術により作られる不織布が「ベンリーゼ」。美容品のフェースマスクやウエットシート、医療用ガーゼ、工場での拭き取り布など幅広い分野で使われる。
 「高い吸液性や保液性をはじめとする機能性に自信がある」と前田部長は説明する。さらに今回の国際認証により自然界で分解されることが認められ、安全性でもお墨付きを得たことになる。
 「旭化成八十年史」などによると、28(同3)年、旭化成の前身・日本窒素肥料がJ.P.ベンベルグ社(ドイツ)からキュプラ製造の技術を導入。31年に延岡市でベンベルグの製造を始めた。もともと化学肥料の原料となるアンモニア製造を行っていた日本窒素肥料が、アンモニアの新たな用途を見いだした形だ。
 74年にベンリーゼが誕生したきっかけは、ベンベルグの主力供給先だったトリコット生地の市場に、低価格のナイロンが参入してきたため。新商品開発の必要に迫られ生み出されたという。
 ベンベルグから数えれば90年、世界各地に生産拠点を置く同社にあってベンベルグ、ベンリーゼは延岡市だけで生み出される。「延岡だからこそ作り続けられる」と前田部長。「五ケ瀬川をはじめとする豊かな清流に恵まれ、地元の関係会社の技術力が高い。高品質の商品生産を支える環境が安定的に整っている」と説明する。
 天然素材に化学の力で機能性を付加した、地球にも優しい製品。「環境との共生という新たな領域での価値創造にチャレンジしたい」と前田部長は意気込みを語った。

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